勘違いも捨てたもんじゃない

「…真希」

「はい」

「いや、何でも無い…」

一緒に暮らしてみないかなんて、いくらなんでも、フ…、今言うのも、強引な話だな。

「誘われても行かないでくれるか?」

「あ、今日のはね、呼ばれて行った訳じゃ無いの。私…ちょっとあって…落ち込んでて。それで、居たところで偶然会って、送るって言われて車に乗ったら、…マンションに着いてて」

はぁ…浩雅の言葉に上手く操られたか…。それでも何となくでも解ってたはずだ。

「ん…解ったから」

はぁ。…多分また似たような事、あるんだろうな。

「あのね、武蔵さん」

「ん?」

「夜ね、話しに来ちゃ駄目ですか?」

「それは…」

「もう、社長さんの住んでる部屋も解ったし、…それにいつも会っていたら不安な気持ちも落ち着くでしょ?その…、何て言うか、会えなくて会うとどうしても凄く情熱的になってしまうことが先になってしまうけど…、頻繁に会っていたら…何て言うか、そこそこの情熱的で済むでしょ?そしたら、話だってできて、急用ができても大丈夫なんじゃないかって。パッと出られるっていうか…。武蔵さんはご飯は社長さんと食べるんだし、私はその後くらいに来ますから、…駄目?」

「フ。笑うとこじゃないんだけど、そこそこ情熱的って…ちょっと弱めって事か?毎日会ってたって、そこは弱めにはならないぞ?」

「…ぁ、え…そんなものなの?」

「当たり前だ。薮蛇だな。毎日…余計、増えるぞ?」

…。かぁ…。

「フ。俺もな…一緒に暮らして見ないかって、さっき言いそうになって止めた。…無理っぽいから」

…一緒に居るということに妙に固執してしまったら、いられないと不満が湧いてしまうんじゃないかって。思うようにいかないとどうしてもそう思いたくなってしまうだろ。

「真希とずっと一緒に居るんだ。やばいだろ?」

…そんな事言われても。じゃあ、どうしたら…。適当なところで、麻酔銃で撃っちゃう?
でもそれだと眠らせてしまうのはいいけど、急用には応えられなくなるのよね。……真面目に考えないと。

「夜間専用に対応してくれる人を雇うとかは?」

「ん?秘書のことか?多分、いきなりでそんな奴は中々居ないし、見付かっても続くかどうか解らない。浩雅相手だからな。まず社長の人格を把握する事から始めないといけないし、実際、動く事があるか無いのか、そんな仕事って、やり甲斐を感じられなくて、それのみではやれないものだよ」

んんー、例え高収入でも飽きてしまうし、何より信用出来る人間で無いと駄目だし。…簡単にはいかないのね、難しい。

「誰を麻酔銃で撃つって?」

「はい?」

聞こえるように言ったっけ?ぇえ?

「俺は獣かって…」

「あ、それは…」

「早く…」

「え?」

「早く撃たないと、もう襲うぞ」

…。

「あ、解りました。よ〜しよ〜し、よ〜しよ〜しって、動物をあやすおじさんみたいにしたらいいのでは?」

…。

それじゃあ、俺は本物の野性の動物扱いじゃないか。

「…懐いた振りして襲ってやる」

…ですよね。
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