勘違いも捨てたもんじゃない

「じゃあ、よしよしして貰おうかな」

あ、もう、いつだって簡単に運ばれてしまう。

「コトが終わったらよしよししてくれ。それまでは麻酔銃は無しだ。あ、そもそも撃っても効かないから」

あ、…。

「あのね、武蔵さん。私、このベッド凄い好きです。ベッドというか、寝具カバーの色が。海の底に沈んだみたいで」

「そうか。同じだな。俺も海の底に沈んだようになれるから好きなんだこの色」

「よく眠れる?」

「昔はよく眠れた」

「今は?」

「今は駄目だ。何がどうなっても、…駄目だ」

「じゃあ、不眠?」

「不眠」

「原因は?」

「真希」

…武蔵さん。

「真希に会えないから眠れない。こうして会っても…眠れない…」

…こんな甘い話も、さっきまでみたいな…ちょっとふざけた話も、いつもしたい。

「だから解決は無理、……解った?」

…真面目な話も、したい。

「なあ、真希。自然で居よう、色々考えても今は解らない。もっと先にならないと。まだこうなってから日が浅過ぎる。まだ今はこうしている事、楽しく過ごしたい。何でも無い話もしたいだろ?」

会えば結局真希の行動も許してしまってる。浩雅に揺れている気持ちの追求もせず。

「…はい」

「あー、真希は何で敬語なんだろうな?」

「え?多分、真希って呼ばれてるから?」

「それで俺が偉くなっちゃったのか?」

「多分?」

「コラー、疑問形に疑問形で返すな。話が進まない」

「でも全部断定では無いから」

「お姉さんなのにな〜。何か甘えてるよな〜」

「それは、武蔵さんが強いから、でしょ?」

「イメージかな〜?口調が原因か…荒っぽいから」

「今のところ、強引な事が多いからだと思う。引っ張られてる感じだから」

「強引は嫌いか?」

「嫌いな人の強引は嫌い」

「ほう…」

「…好きな人の強引は好き」

「じゃあ、強引は好き?」

「…好き」

「ん、じゃあ…朝帰りする?…それとも、今夜帰る?」

…ずっと居たい。

「今夜帰ります…帰れたら」

「あ、…解った。じゃあ、俺を寝かしつけたら帰っていいよ」

…それは。

「…無理」

「まあ、試しによ〜しよ〜しして見たらいいんじゃ無い?」

「それは…無理。あ………ん」

ふと変な事が頭を過ぎった。安住さんの時のように、もし私が寝言で、安住さんの名を呟いたら、武蔵さんはどうするんだろうって。

…噛まれてしまうかな。それでは、そんなことでは済まないかも知れない…。
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