勘違いも捨てたもんじゃない
岐路に立つ…
んー、…、あ、…そうよ。…そう。…そうなのよね……。ぁ、いけない。仕事中だった…。課長、チラッとこっちを見たような…。
思い出してよく考えてみたら、出会い方は有り得なくても、その後の印象は悪くないんだ。正統派紳士?というのかな、決して変な感じじゃなかったのよね…。それからだって、割と紳士的だし。私では計り知れないくらい策士ではある。間違いない。…でも…、だからと言って。…ゔ〜ん。
ブー、…。……あ。嘘…。
【思い出してくれてたかな?】
え?無意識にキョロキョロした。私の独り言、まさかどこかで聞いてる?覗いてる?バッグに高性能な盗聴器でも?…デスクに?………そんなのある訳無い…。飛躍し過ぎよ、…超極端な思考なんだから。…安住さん、どういうタイミング…。
【丁度、考えていました】
なんて返したらきっと喜ばせてしまう。
【それは、思いもよらぬ返事】
こちらこそなんです…、思いもよらぬタイミングのメールだと思ってるところです。
【今、仕事中なので失礼します】
【送っておく。見てくれるのは後で構わないから】
…変に運命的な事まで考えてしまいそう。丁度考えていたところだったから…連絡が来るなんてびっくりした…。思わず見回しちゃったし。こんなタイミングって、…あるんだ。
「高鞍、ちょっと来て」
うわっ。…課長。
「はい」
またまた、びっくりしたぁ。不審な呟きと不審な動き。気がついていたのね、…当然か。
また余計な心配をかけてしまったのかな…。何だか解らない気持ちを行ったり来たりさせ、月日が経っても全然進歩していない。私の心は…フラフラとというか、何をしているのか…どうしたいのか…。
「高鞍?」
いけない。
「あ、はい、すみません、すぐ…」
「はぁ、高鞍…もしかしてまだ気にしているのか?」
座りながらカフェラテを渡された。
「有難うございます…、重ね重ねすみません」
「ん、いや。それより、俺の事なら気にするな。至って普通だろ?」
「え、あの、…は、い」
どう返事をしたら良いのか…、さっきの挙動不審なのは課長の事では無いし。
「…彼の事でも考えていたか」
「え゙、そんな…、違います」
…彼ではありません、妙な紳士の事です。
「ハハ、そう慌てるな。否定が早いな…。別にいいじゃないか、好きな人の事を考えていても、仕事に支障が無ければ」
ですから、違うんです。
ブー、ブー、…。あ、…。もう、このタイミングで来た…。マナーモードっていっても、割と響くのよね…。
「…彼からかな…」
「違います」
見てないけど。
「俺は高鞍の事を傷付けてしまったな。あの時は少し言い方がきつかった。誤解の無いように言っとくけど、振られた腹いせじゃないからな?」
あー。そんな風には全然思ってない。
「はい、解っています。私が良くなかったんです、大丈夫です、すみませんでした」
…軽率な発言でした。
「…上手くいってるか?」
…この件に関しては答えられるものがない。
「あ、その、すまん、立ち入った事を。まあ、喧嘩する時もあるよな」
あ、う、違うんですけど。
「なあ、高鞍…俺達はそう若く無い。だから色々ある、よな?若いつき合い方とはやっぱりちょっと違うからな。…十若ければな…無理も突き通せるかも知れない…」
「課長…」
「上手くいってるはずなのに…よく解らない事、いつかは解るさ、な?」
あ、…。
「…何でも覚えているよ?気になる人が話した事は。…気になるからな」
眼鏡のフレームを上げた。
「…有難うございます」
はぁ、結局、何かと気にかけてくれているという事なんだ。
腕時計をチラッと見た。
「さぁて…と、高鞍は後少しだ。いやー、休憩につき合わせて悪かったな。早く帰れよ、時間は大事だ」
ポンポンと肩を叩いて、ポケットの、多分携帯を指したつもりだろう。
「いや、違いますから」
いいこと言ってくれてるのに、これは…こっちの件は違うって言ってるのに。
「お、今のはセクハラじゃ無いよな?」
「…違います。大丈夫です」
そうですって言ったらどうするんですか。