浅き夢見じ 酔ひもせず
✤
「これは……」
呼び出された本堂で、実平(さねひら)は眉を顰めた。
目の前には首が半ばまで抉れた死体が転がっている。
腕も片方なく、肩から胸にかけて、ざっくりと三本の傷跡によって切り裂かれている。
「熊……とも思えませぬなぁ」
「熊であれば、わざわざお主を呼ぶまでもない」
死体を挟んで立つ僧都が、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
この山の奥深くには、修験者が多い。
その多くはこの寺に属していて、寺から呼び出しがあれば、各々寺に現れる。
実平は手にした棒で、とん、と肩を叩いた。
杖にしては細く短い。
格好も、修験者というよりは単なる寺男のようだ。
「何ぞ妖しの類が出ましたか。そういえば、昨日(さくじつ)空気が揺れましたな」
実平が言うと、僧都は小さく頷き、本堂の奥へと歩いて行く。
細い廊下をついて行くと、先のほうに、赤い格子戸が見えて来た。
「邪鬼が逃げましたか」
言いながらも、実平は少し首を傾げた。
邪鬼退治なら、他の修験者でもいいはず。
わざわざ実平を指名したからには、何か理由があるはずだ。
格子戸を潜ってさらに行くと、細く蝋燭の灯が見え、小さな祠が姿を現した。
そこに祀られていた赤い瓢箪が転がり、蓋が開いている。
実平は瓢箪を手に取り、まじまじと眺めて見た。
当然中を覗いてみても何もない。
軽い、ただの瓢箪だ。
「封じの呪はきつそうですが、これといったものも感じませぬなぁ」
ますますわからない。
「見つからないから……ですか?」
実平が言うと、僧都は一拍置いてから、小さく頷いた。
「まぁ……そういうことじゃな。先の死体を見たじゃろう。おそらくあれは、この邪鬼に殺られたんじゃ」
「そんな強力な邪鬼とも思えませぬが」
「あのままならな。何か……力を得たのであろう」
どこか言いにくそうな説明に、実平は先までの疑問が少しだけ晴れた気がした。
「では鬼を見つけ次第、始末しますよ」
呼び出された本堂で、実平(さねひら)は眉を顰めた。
目の前には首が半ばまで抉れた死体が転がっている。
腕も片方なく、肩から胸にかけて、ざっくりと三本の傷跡によって切り裂かれている。
「熊……とも思えませぬなぁ」
「熊であれば、わざわざお主を呼ぶまでもない」
死体を挟んで立つ僧都が、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
この山の奥深くには、修験者が多い。
その多くはこの寺に属していて、寺から呼び出しがあれば、各々寺に現れる。
実平は手にした棒で、とん、と肩を叩いた。
杖にしては細く短い。
格好も、修験者というよりは単なる寺男のようだ。
「何ぞ妖しの類が出ましたか。そういえば、昨日(さくじつ)空気が揺れましたな」
実平が言うと、僧都は小さく頷き、本堂の奥へと歩いて行く。
細い廊下をついて行くと、先のほうに、赤い格子戸が見えて来た。
「邪鬼が逃げましたか」
言いながらも、実平は少し首を傾げた。
邪鬼退治なら、他の修験者でもいいはず。
わざわざ実平を指名したからには、何か理由があるはずだ。
格子戸を潜ってさらに行くと、細く蝋燭の灯が見え、小さな祠が姿を現した。
そこに祀られていた赤い瓢箪が転がり、蓋が開いている。
実平は瓢箪を手に取り、まじまじと眺めて見た。
当然中を覗いてみても何もない。
軽い、ただの瓢箪だ。
「封じの呪はきつそうですが、これといったものも感じませぬなぁ」
ますますわからない。
「見つからないから……ですか?」
実平が言うと、僧都は一拍置いてから、小さく頷いた。
「まぁ……そういうことじゃな。先の死体を見たじゃろう。おそらくあれは、この邪鬼に殺られたんじゃ」
「そんな強力な邪鬼とも思えませぬが」
「あのままならな。何か……力を得たのであろう」
どこか言いにくそうな説明に、実平は先までの疑問が少しだけ晴れた気がした。
「では鬼を見つけ次第、始末しますよ」
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