浅き夢見じ 酔ひもせず
 半刻ほど後、僧都が本堂から姿を現した。

「邪鬼を体内で滅するには、己で腹を斬らねばならん。そうそうできることではない」

 一気に憔悴したような僧都の横をすり抜け、実平は本堂に走り込んだ。
 初めに僧都に連れて行かれた、細い回廊を進む。

 赤い格子戸の奥に、小さな灯が見えた。

「……あげは……」

 小さな祠の前に広がる血の中に、蝶が力尽きたように、あげはが倒れていた。

 実平はうつぶせに倒れているあげはを抱き起そうとして思い止まった。
 腹を斬ったのであれば、醜い傷跡は曝したくないだろう。

「そんな思いしなくても、お前の首ぐらい、軽く刎ねてやったのによ」

 呟いた実平の頬を一筋涙が伝い、足元の血溜まりに溶けて行った。


*****終わり*****
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