夕星の下、僕らは嘘をつく
無色透明
1
一番好きな色は黄色。だったのは昔の話で今は違う。
一番嫌いな色は黄色。だって、嘘つきの色だから。
電車の中が比較的静かで助かった。
そう思いながらも時折聞こえるひそひそ話から目を必死にそらして頑張ったのに、駅に降りた途端私は色の洪水に襲われた。
どこを見ても人、人、人。
日本が誇る観光地だからって、こんなに人がいなくていいだろうと思ったけれどどうしようもない。
私はうつむき加減に、時々頭を上げて道を確認しつつ、改札へと向かった。
頭上のスピーカーから駅員のアナウンスが流れてくる。視線を上げても、それは無色。
電話の相手に怒声を浴びせながら歩いていった人の声は、赤色。仕事でトラブルでもあったんだろう。
隣を同じペースで歩いている集団は橙色。楽しそうで何より。私の気分は最悪。
また視線を落として、なるべく周りの人間をシャットアウトする。
人の流れに乗っていけば、大丈夫なはず。
しかしそれが災いして、隣の人とぶつかってしまった。
割と大きな衝撃に、顔を上げて相手を確認する。
私より頭ひとつ大きい少年だった。向こうはなんてことない風に歩き続けている。
「す、すみません」
立ち止まるわけにもいかず、歩きながら少年に謝ると、彼は私を二度見してから笑った。
「大丈夫。こちらこそごめん」
すこし砕けた物言いだったけど、物腰が柔らかいからかいやな気持ちにはならなかった。
むしろその笑顔がどこか懐かしい気がしてしまう。
もう一度頭を軽く下げて、今度は気をつけようと俯きつつも注意を払って歩く。
そこでふと、気がついた。彼の声に、色がなかったような気がする。
焦ってて気づかなかっただけかもしれない。
そうは思いつつも再び彼を視界に入れようと横を見る。
しかし歩くスピードが違ったのか、もうすでに横にはいなかった。もちろん、前方を見たところでわかるわけもない。
まあぶつかっただけだし、気にしなくてもいい、だろう。うん、いいはず。
そう自分に言い聞かせて、出口を目指す。
色がなかった声は、電話やスピーカーを通したものを除けば、過去たった一人だけだった。
でもたぶん、見逃しただけだ。一瞬だったし。
若干迷いそうになりながらも、なんとか外に出る場所を見つける。
電車の中で熱をためた私の身体を冷えた空気が一新していった。
一番嫌いな色は黄色。だって、嘘つきの色だから。
電車の中が比較的静かで助かった。
そう思いながらも時折聞こえるひそひそ話から目を必死にそらして頑張ったのに、駅に降りた途端私は色の洪水に襲われた。
どこを見ても人、人、人。
日本が誇る観光地だからって、こんなに人がいなくていいだろうと思ったけれどどうしようもない。
私はうつむき加減に、時々頭を上げて道を確認しつつ、改札へと向かった。
頭上のスピーカーから駅員のアナウンスが流れてくる。視線を上げても、それは無色。
電話の相手に怒声を浴びせながら歩いていった人の声は、赤色。仕事でトラブルでもあったんだろう。
隣を同じペースで歩いている集団は橙色。楽しそうで何より。私の気分は最悪。
また視線を落として、なるべく周りの人間をシャットアウトする。
人の流れに乗っていけば、大丈夫なはず。
しかしそれが災いして、隣の人とぶつかってしまった。
割と大きな衝撃に、顔を上げて相手を確認する。
私より頭ひとつ大きい少年だった。向こうはなんてことない風に歩き続けている。
「す、すみません」
立ち止まるわけにもいかず、歩きながら少年に謝ると、彼は私を二度見してから笑った。
「大丈夫。こちらこそごめん」
すこし砕けた物言いだったけど、物腰が柔らかいからかいやな気持ちにはならなかった。
むしろその笑顔がどこか懐かしい気がしてしまう。
もう一度頭を軽く下げて、今度は気をつけようと俯きつつも注意を払って歩く。
そこでふと、気がついた。彼の声に、色がなかったような気がする。
焦ってて気づかなかっただけかもしれない。
そうは思いつつも再び彼を視界に入れようと横を見る。
しかし歩くスピードが違ったのか、もうすでに横にはいなかった。もちろん、前方を見たところでわかるわけもない。
まあぶつかっただけだし、気にしなくてもいい、だろう。うん、いいはず。
そう自分に言い聞かせて、出口を目指す。
色がなかった声は、電話やスピーカーを通したものを除けば、過去たった一人だけだった。
でもたぶん、見逃しただけだ。一瞬だったし。
若干迷いそうになりながらも、なんとか外に出る場所を見つける。
電車の中で熱をためた私の身体を冷えた空気が一新していった。
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