夕星の下、僕らは嘘をつく
そしてその次がたくさんの声の色に飲まれること。
まだ能力に気づいたばかりの頃、学校はただの地獄だった。
赤も青も緑も黄色も紫も茶色も。とにかくひっきりなしに色が充満している環境に耐えられなかった。

しかも意味もわからない。
突然、人が喋ると口元に色がついた煙のようなものが見えるようになったときは、いよいよ頭がおかしくなったんだと本気で思った。
 

その色が、どうやら感情を示していると気づかせてくれたのは、莉亜と友哉だった。
ありがたくなんかない。
一生知りたくないことだった。
 

だから引きこもった理由を問われたって、答えようがなかった。
だって、理解してくれないでしょう。

同時に、そのことで私を嘘つき扱いして、きっと他に理由があるんだと勝手に決めつける。
上辺だけの優しいことばをかけて、本心ではめんどくさいなって思ってる。
それが本当にそうだとわかってしまうのだから、どうやったって幸せにはなれないのだ。
 

もちろん、叔母に全幅の信頼を置いているわけではない。なんて言ったら冷たいけれど。

先述したように叔母だって人間だから、きっと嘘はつく。
嘘をつかない人間がいたらむしろお目にかかりたい。

それでも、私にはもう叔母しかいないかもしれないから、今は叔母のそばにいる。

それに今のところ嘘をついたってほんの些細なことだけだ。
たとえば冷蔵庫にある大量のケーキを「仕入れ間違えちゃった」なんて言っていたけど、その声は黄色だった。
 

そう、誰だって、私だって嘘をつきたくなることはある。
でも今は嘘をつきたくない気持ちのほうが大きい。

だからこそ、他人と交流をも持ちたくないのだと、自分自身わかっているつもり。


「そういえは晴、前に彼氏がいるって言ってなかった?」
お漬け物をかじりながら叔母が質問を投げてきた。
そこまでの流れがこの間テレビで見た恋愛映画だったから、おかしな質問ではない。

事実、その声は喜びや嬉しさ、楽しさを表す橙色だった。
それに言った直後に叔母の動きが一瞬止まったから、本当に純粋な会話だったのだろう。


「別れた」
それに関しては、隠すことでもないだろうとあっさり答えておく。
「私はともかく、叔母さんは? いないの? 恋人」
ただし、それ以上聞いてくるなと、質問を返す。
すこし意地が悪いけれど、自衛のためだ。


「いないわよ、ずっと」
叔母は顔色を変えずかすかに笑みを浮かべて言った。

そこで朝ご飯も食べ終わったので、会話も打ち切りになった。
互いに触れたくない会話には触れないのも、距離感を勘違いしないのも、ある意味ルールだろうし、別段嫌な気分にもならない。

まあ、叔母が誰かとつきあったり結婚しない理由は知ってはいるんだけど。
まだ、叔母には前よりそう思える相手が出てこないんだろう。
そのへんは個人の勝手だし、私なんかが口出しすることではない。
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