夕星の下、僕らは嘘をつく
喫茶店の開店準備をするという叔母の代わりに食器を洗って、終わってから店の掃除を手伝った。
今日の仕事は最低限こなしただろう。

私は店に立ちたくないから、叔母に断って部屋へと引っ込む。
その間際に叔母がくれたココアが、甘くて温かかった。
 

部屋に戻ると、携帯に通知が入っていた。
一応確認すると莉亜だった。

『おはよー! 冬休み超ヒマだよ。どっか行こー、みんな晴がいなくてさみしいってゆってるよ』
 
毎日よく諦めないなと思う。
昨日だって途中で返信を切ったし、既読したまま放置なんてざらだ。

だけど莉亜は律儀にメッセージを送ってくる。
 

莉亜はきっと知らないのだろうな、と思う。友哉が吐いたこと。
友哉のことだから、私に知られたなんて莉亜に言ってないんだろう。

だから私たちが別れたのは私のわがままだ、って思ってるはず。
気づかないのか、気づかないふりをしているのか。
まあ問いつめない私も私だから、その点についてはあまり言えない。


『冬休みは家にいないから、また今度』
 
せめて一回ぐらいは返信しておこうと、文字を打つ。
送信ボタンを押すのに一瞬ためらったけど、他に言い様はなかった。
 

自分の彼氏寝取った相手に、なにやってんだろ、ってつくづく思う。
それが小学生からの親友だってんだから、笑いがでる。

ねえ晴、それでも莉亜のこと親友だって呼ぶの?
そう自分に問いかけたのは何回あっただろう。答えはでない。

だって私は、友哉に聞いただけでまだ莉亜には確認していないから。
友哉の言い分だけでは、判断しがたい。
 
なあんて、都合のいい逃げ道。
確認するのが怖いだけのくせに。
 

まあそれでも友哉だって悪いというか、倫理より下半身に負けたんだからあいつのほうが馬鹿かもしれない。
そういう男を好きになって恋人に選んだのは私だし、幾度とない誘いを断り続けたのも私だ。
結果友哉は我慢ならなくなって……ってやっぱ阿呆だろあいつ。
 

莉亜はどんな気持ちだったんだろう。
莉亜も友哉のことが好きだったんだろうか。

考えようとしてやめた。きっとわからない。本人に聞かない限り。
 

ていうかやっぱり、寝取るとか寝取られるとかなんちゅう話だ。まだ十六だよ私たち。
莉亜と友哉に比べて、私が子どもかってことか。
私のほうがマイノリティか。だったらそれでいいわ。コーヒーよりココアがおいしいわ。うん。
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