夕星の下、僕らは嘘をつく
ココアを飲み干して、さて今日はどうしようかと考える。

畳んで隅に寄せた布団を枕に転がってみたりする。
大きなあくびがでた。
このまま二度寝も悪くないけれど、せっかくだからなにかをしたい気もする。
 

考えてみると、こんな気持ちは久しぶりかもしれない。
家にいたときは、日中両親が仕事でいないとはいえ、なにもする気が起きず、ただただ部屋で丸まっていた気がする。
テレビを見ても漫画を読んでも熱中できず、なにもしたくないと思っていた。

なのに環境が変わっただけで全く反対の気持ちが生まれている。
私の心もかなり現金だ。
 

かといって詳しくない土地、持ってきたのも最低限の服と雑貨だけ。
あとで叔母に聞いて本屋ぐらい行ってみようか……というのは却下。
ネットで買って叔母の家を受け取り場所に指定すればいい。
 

もちろん、誰かと交流しようなんて気はさらさら起きない。
今ある関係すらどうにもできておらず、ましてやもうすべて遮断したいと思っている。しきれてないけれど。

その点ではこの土地はありがたい。
叔母以外の知り合いはいないから。新しく作る気もない。
 

じゃあ、と再び考えようとしたところで、叔母の声が聞こえた。
襖を開けて、階段下の声に返事をする。

どうやらおつかいを頼みたいらしい。
外出になってしまうけれど、場所はここからすぐの上賀茂神社。朝だし人もまばらだろう。

やることもなかったからその依頼を受けることにした。
叔母からしたら、すこしでも外出させようという気持ちなのかもしれない。

私だって引きこもってるのが好きなわけじゃない。
人がいなければ、外に出たいと思うことは何度もあった。残念ながら、家にいたときは叶わなかったけれど。

それにお世話になっている以上、すこしぐらい貢献しないとね、という思いもある。
まああの両親が生活費とか言って大金を渡してそうだけど。
大概のことは金で解決できると思っている我が両親にはある意味敬服する。
 

コートを着てマフラーを巻いて、玄関へと向かう。

「覚えてる? 二本北の橋のところだから」
お願いね、という叔母に返事をして、外に出た。
 

予想はしていたけれど、やっぱり空気が冷たかった。
ブーツのつま先がどんどんと冷えてゆく。
 

さすがに神社の場所は覚えていた。川を遡ればすぐだ。
叔母は上賀茂神社横にあるお店のやきもちが好きで、私が来たときは必ず一緒に食べていた。
朝方に行かないとすぐ売り切れてしまうから、朝の散歩にちょうどいい。
ついでに神社にお参りもして行こうか。
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