夕星の下、僕らは嘘をつく
「私、は……」
かといって私が素直に告白するポイントにはならない。

確かに莉亜たちに言って笑われるより、ダメージははるかにすくないだろう。
それに彼だけ告白して私はしないのはフェアではない。それはわかっている。
 

それでも、こんな能力、他人には言えないと思った。
 

だって、彼のとはわけが違う。
よしんば彼の言うことが本当で、幽霊が一ノ瀬くんの身体に取り憑いていたんだとする。
でもだからといって彼は他人から迷惑がられるようなことはしていない。

確かに、一ノ瀬くんやその家族、友人からしたら気持ちのいいものではないだろうし、嫌だろう。
でも私は彼を卑下するほどの立場にいない。

だけど私は違う。
見ず知らずの他人だって、喋ってるだけで感情がわかられるなんて、嘘か本当かが伝わってしまうなんていやだろう。
 

彼は理解しようとしてくれるかもしれない。
だからこそ聞いてるのかもしれない。
もしかしたら似たような仲間だと思いたいのかもしれない。
 

ただ私は、それほど彼を信頼できない。
すべてが、かもしれないという可能性の世界で、そのパーセンテージを上げるなにかを、私たちは互いに築いていない。
 

それってすごくさみしいけれど。
わかってる、誰も信用できないってことは、とてもむなしいって。
だけどしたいこととできることは別だ。
 

黙ったままでいると彼は納得したように頷いた。
「君はさっき嘘つきを軽蔑すると言っていたから、きっと自分も嘘をつきたくないんだろうね」
昨日会ったばかりの人物にそこまで言われて、思わず一歩下がってしまった。

「じゃあ言わなければいい。言わなければ嘘をついたことにはならない。よけいなことを言うより、言わないほうが余程いいよ」
 
フェアじゃないことを責められるかと思った。
けれど彼の口から出てきたのは真逆のことだった。

言えなくてだんまりを決めこめば、今までは必ず「大丈夫だから」「信じて」「教えて」と繰り返されたのに。
 

予想外の展開に、思わず笑ってしまった。
全身から気が抜けて、しゃがみたくなってくる。さすがに、しないけど。


「言わないことを、責めはしないんだ」
私が言うと、彼は心外だな、と初めて眉を寄せて見せた。
「言いたくないことを無理強いするほど俺もひどい人間じゃないよ。それに」
彼はずっと手にしたままだった飴玉を私にぽんと投げてきた。

「答えないってことは、君もなにかの能力がある、ってことだろう。それがわかれば充分」
慌ててそれをキャッチした。ものの、そのことばにすぐに投げ返す。
彼は笑いながら、片手でそれを受け止めた。
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