【短】 友よ 大切な人よ
月が明るい夜だ。
「いよいよ第一線だな」
俺はポツリといった。
その言葉は、すぐに夜の闇に吸い取られてしまった。
この夜が明ければ、
最前線にたって、人を殺さなければならない。
誰のために?
何のために?
「そうだな。…だけど、生きて帰るぞ」
彼の言葉に思わず振り向く。
「この闘いは、まだ大きな戦争の皮切りだ。命を無駄に落とさなくていい。」
ゆっくりというと、彼は俺の方を見た。
「未来のために。今は生きなければならない」
俺は、何も言えず、彼の顔をみていた。
本当に静かな夜だ。
さして音量が大きい声では言っていないはずなのに、
彼の言葉がしっかりと心の中で響いている。
「だから、大丈夫だ」
不思議と、心の中に安堵が生まれた。
「お前に、ついていくよ」
俺は彼に向かって軽く敬礼をする。
彼はよせよ、と言いながら笑った。
やはり優しい笑顔だった。