【短】 友よ 大切な人よ
月夜
岩陰に隠れながら、
彼は胸のあたりをギュッと掴む。
「気分が悪いのか?」
俺が小声できくと、
彼は首を横に振った。
「そうか。」
俺は周囲に目を配り、
自分の手榴弾を手に取った。
「おい、それを今使うのか?」
「今使わないでいつ使うのさ」
今、俺たちは敵に囲まれている。
「お前、一つしか持っていないのだろ?」
「その一つを出し惜しみをして、ここでくたばれってか?」
俺は、口で引き金を引いてから、
敵の足元に投げとばした。
そして、その爆破と共に、
煙の合間を縫って、彼と逃げた。
まだ終わらないのだろうか。
この戦争は。
まだ戦わなければならないのだろうか。
俺たちは。
この戦場に、いくつの死体が転がっているのだろう。
そのなかで、俺は何人殺したのだろう。
かつての仲間は、どれくらいいるのだろう。
彼らは、何を思って死んでいったのだろう。
何も考えられなくなったとき、
彼が腕を引いた。
「もう大丈夫だ」
俺は、ハッと振り返った。
血だらけの彼をみて、
そして自分自身の腕も血だらけなのをみて、
俺は叫んでいた。
彼は、俺を抱きしめた。
正気と狂気の境目が、
紙一重になっていた。