夢の話
一日目
「きみはあと7日で死ぬ」

唐突にそう言われたもんだから、私は聞き返してしまった。ある、晴れた日であった。勤務前に一服してやろうと喫煙所に訪れた先で出会った彼は、まだ煙草に火を点けていなかった。ジッポが良く馴染んだ音を立てて点火したその時、朝の挨拶も無しにそう言った彼に、思わず視線をやったときには彼は烟を燻らせていた。
「なにそれ」
「そう言われた。死神に」
「いつ?」
「昨日」
「どこで?」
「夢で」
淡々としたやり取りのあと、ああ、と納得する。何をいきなり、と思ったが、良くある夢の話ではないか。しかし朝一番に聞くにしては多少なりとも気分が良いもんじゃない。が、何か別の話題も思い付かなかったのでそのまま話すことにする。
「それで?」
「今度は逃げられませんよって言われてさ」
「今度ってなんだよ」
「夢の中でおれは1度死神に宣言されてたけど助かって生き延びててさ。でも2度目は無いですよって言われた」
それも二次元的な美少女な死神だった、と彼は言う。
私はとりあえず煙草に火を点けて、1口肺に入れた後でその話を噛み締める。つまり、生き延びてラッキーでは終わらなかった、悪夢だったと考えるべきだろうか。
「夢見悪かったから寝不足だって言いたいってこと?」
「いんや。夢見が悪いわけじゃなくてさ。なんか、しっくりきたっていうか。ああ、おれは一週間後に死ぬんだなって納得してすっきり目が覚めた」
そしたら、こんなに早く出社してしまった。いつも始業十分前に出社する彼がこんなに早く姿を見せている理由を理解して、私は少し笑った。
「理不尽だって思う訳でもなく?」
「なんか、そうなんだー、って思ってさ。」
「でも相手は二次元なんでしょ?」
「そうなんだけど、妙にリアルだったっていうか…上手く言えねぇけどさ」
「で、信じてるんだ?」
うまく言えないけど、と続け首を傾げて困った顔をしてる彼に問うと、少し考えたあと、ゆっくりと頷いた。
「死ぬ様な気はしている」
その声が思いがけず真剣だったから、私は煙草を落としそうになった。その目があんまりにも真剣だったから、私は思わず笑ってしまった。
「夢なのに」
「夢だけど。どっちにしても、誰だっていつ死ぬか分からないわけじゃん?なんか、それを今更だけど思い出した感じ。」
煙草を先に吸い終わった彼は、灰皿へと煙草を押し付ける。じゅ、と音を立てて火が消えて、なんだか空恐ろしくなった。
「だから死ぬつもりで、あと一週間生きてみよーって思ってさ。」
「それで、まずは早めの出社なのか」
「それはたまたまだけど。…ああ、それもいいかもしれねーなぁ。…でも実際、あと一週間しかないって考えてみたらやりたいことって思いつかないもんだよな」
大きく伸びを一つ。それを見ながら私も煙草を灰皿へと押し付けて、その背中をひとつ軽く叩いてやった。
「まずは、今日一日仕事頑張ったら?」
「違いねーわ」



一日目。
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