センパイ、私は由宇です…。
私は、高校2年生の田本 由宇(たもと ゆう)。
双子の姉である未宙が亡くなって、約5ヶ月経った。
折々、思い出すと寂しくなって学校で突然泣いてしまうこともあった。
だけれど、
そんな時に支えてくれる友人やクラスメイトがいた。
それでも放課後に、未宙を無意識に探すために廊下を歩いている自分がいた。
また、今日も無意識に廊下を歩いている。
私の足元にオレンジ色の夕日が差す。
...あっ。
今日もきれいな夕日が見れる。
そう思って顔をあげた。
あれ?
確かあの人、ここ1週間ずっとここの廊下の窓際で黄昏ていたよね...?
まあ、確かに廊下の窓際から見る
夕日はきれいだけれど。
その時、寒い風が鼻をつく────。
思わずくしゃみをしてしまった。
オレンジ色に男子生徒が染まっているせいで顔は良く見えない。
でも、こっちを見ているのだろう...。
視線を感じる。
どうしよう...邪魔しちゃったかな...。
「ご...ごめんなさいっ!!」
「...え?」
...え?
あの男子生徒、今「え?」って言ったよね。
「あ、あのー?」
「...未宙っ」
え?...未宙?
私は“ 由宇”なんですけど...。
...って、えっ?!なんか腰の所に手がっ...。
あっ?!なんか首の所に髪の毛の感触がする。
もしかしてこれは...。
「未宙...待ってたんだぞ...」
その男子生徒の言葉が私の耳の後で聞こえる。
もしかして私、抱きつかれてる!?
しかも、私は未宙じゃない...!!
私の首に水のようなものが落ちてきた。
外は晴れだし...雨ふってるわけでもないし。
もしかしてこの人泣いてる...?
恐る恐る男子生徒の方を見た。
大粒の涙を流していたその顔に喜色が表れていた。
「未宙...やっぱりいたんだな...」
私を抱きしめる力が強くなっていく。
自分の名前を呼ばれながら抱きしめられたわけじゃないのになんだかドキドキする...。
私は“ 由宇”なのに。
でも、未宙って呼ばれてもドキドキした。
やっぱり異性から抱きしめられることに、馴れていないから恥ずかしい。
...というか、この人は未宙が亡くなったこと知らないのかな...?
ん、待てよ。思い出した!!
この人、お通夜や葬式の時にいた。
同級生にはいないような後ろ姿とその顔。
...うちの学校の生徒だったんだ。
だから、私はなんかこの人知ってるなーって
ずっと思っていたのか...。
でも、この人うれしそうにしている。
この人、未宙に双子の妹である私の存在知らないの...?
「あのー、すみません。
アナタさっきから私を...未宙って呼んでますよね...?」
「ん?...だからどうしたの?」
この人...。
未宙がこの世にもういないという現実を受け入れられていないのだろうか。
それに、こんなに未宙のことで涙を流して感動してるってことは...。
「か、彼氏さんですか...?」
「...何いってんの未宙。俺がりょーちゃんってことは知ってるでしょ...?」
...りょーちゃん?
この人、りょーちゃんっていうの?
まあ、いいや。
というか、この人カッコイイなぁ。
背も高くて色が白くて、髪の毛は黒なのになんかイケている。
でも、派手すぎなくて...優しそうな人。
とにかくこの“りょーちゃん ”って人が未宙の彼氏だったんだ...。
そういえば未宙、凄い幸せそうに毎日家に帰ってきていたなぁ。
おめかしして、お出かけに行く姿が恋する乙女そのものだった。
自分と同じような顔のはずなのに未宙のほうが断然、可愛かった。