豊中まわり
プロローグ深瀬結莉
「なんで?どうしよう…どうしよう…」

トイレの中でひとりパニックだった。



ー2時間前ー

今日は久々に小中から友達‥‥のはずだった里桜(りおう)と愛良(あいら)、3人でカラオケって聞いてた。

でも、3人じゃなかった。

待ち合わせの豊中駅前に行くと
2人の他によくわからない男子が3人いる。

里桜の友達らしく、派手なかんじがした。

里桜に気付かれなければ、そのまま帰えりたかった。

しかし、私に気付いた里桜は、

「ゆうりー!」

と大きく手を振った。

逃げそびれた。

仕方なく、輪の近くまで行って、見知らぬ男子に軽く会釈した。

今風の髪型をした男子達にジロジロと見られて、とても居心地の悪さを感じた。

なんとなく、3人とも苦手な雰囲気。

里桜に小声で聞いた。

「今日は3人で遊ぶんじゃなかった?
男子もいるなんて聞いてないんだけど…」

中学の卒業式以来2ヶ月ぶりに会う里桜は、派手さに磨きがかかっていた。

耳のイヤーカフがキラキラと光っている。

里桜は低い声で

「結莉(ゆうり)が彼氏つくらないのがダメなんだよ。
さっさと彼氏作りなよ。
私の友達紹介してあげるから。」

ズシンとお腹のあたりが重くなった。

帰りたい。

でも帰ったら怒るだろうな…

とりあえず行くしかないのか…

嫌な気持ちが体を覆う。

里桜と愛良は小学校の時からの友達。

小学4年の時に引っ越してきた私に

優しくしてくれたのがこのふたり。

高校は別になったが、中学卒業以来久々に誘われて、私は少しうれしかったのにな…。

里桜がこんなこと言うのに 心当たりが全くないわけでもない。

仲村君のことだろうな…まだ好きなのか…。

仲村君は里桜が中学から好きな人。

私とは、中2の時同じクラスで、1回隣の席になったくらい。

いっつも授業中 隠れてスマホでゲームして、先生に怒られてる派手なかんじの男子だった。

ゲームもしないし、スマホも持ってなかった私には、関わるはずもない遠い男子だった。

隣の席の時何回か話して、ノート貸してって言われて、テスト前に貸したことがあるくらい。

私の中村くんとの思い出は、本当にその程度。

それ以上でもそれ以下でもない。

ノートがなかなか帰ってこなくて、無くされたんじゃないかと心配したことが、印象的な出来事。

でも私のことが好きらしいって、中3年の春に噂が流れて、そこから里桜は変わった。

もともと里桜は自分の枠から出た人に冷たかった。

私にその冷たさが向けられるのが嫌で、仲村君とは極力距離を置いた。

私は彼を好きでも嫌いでもなかったから。

本当に私のことが好きかなんて わからなかったし。

里桜は仲村君と同じ高校にいったはず。

この状況は、まだ好き…なんだな。里桜。

でも恐くて聞けないな。

行くしかないのか…

皆の一番最後からとぼとぼついていくと、

愛良が隣にきて言った。

「内緒にしててごめんね。
本当は言いたかったんだけど、男子もいるって知ったら結莉来ないでしょ。」

「うん…。」

「里桜さ、最近仲村君に告ったらしいんだけど、好きな人いるって断られたっぽいんだよね。」

「ふーん。」

と答えながら、

予感的中…とまた重い気分になった。

で、その‘好きな人’ってのが私?

とはもちろん聞けなくて、モヤモヤした気持ちを抱えたままカラオケに入った。

とりあえず2時間ったったら帰ろう。

そして当分里桜には会いたくない。

そう決めた。


思えば小学生のころから、この力関係は変わってない。

リーダーは里桜。

先生にも友達にも気に入った相手にはべったり甘え上手。その他には冷たい。

愛良は小さいころから里桜と同じマンションで、いつも里桜の言うことにNOを言わない子だった。

私は引っ越しのせいもあって、

友人の選択権はなかった。

最初はべったりで、段々離れていく里桜をめんどくさく思いながらも、頼りにしているところもあった。

私は家の近くの高校に。

里桜と愛良は制服のかわいい高校に。

高校は別のとこに行けて良かった。




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