豊中まわり
「えっ!」

私だけでなく、ママも伊織くんのママも言葉を失った。

意味がわからない。

「これでいいでしょ?
ともだちって言っても信じてもらえないみたいだから。
ともだち一人もいなくなっちゃった。
だから、結莉、よろしく。」

ニコッと笑う伊織くんに、
思考がついていかない。

なのに、本人は、何事もなかったかのように、ジュースを飲みはじめた。

「私、付き合うって言ってないのに、
なんで全部消去したの?
消さなくていいよ!」

怒る私なんて、気にもしない様子の伊織くんは、

「こうでもしないと、結莉、オレのこと真剣に見てくれないでしょ?」

そう言って、スマホをテーブルに置いた。

私のママが、小さなため息をついて、

「伊織くん…女の子の友達の連絡先消して欲しかったわけじゃなくて…」

そういいかけた時、伊織くんのママが、食い気味に

「いいのよ。伊織は女の子がまわりに多過ぎだったから、全部無くなった方がスッキリするわ。
でも、結莉ちゃんに迷惑かけるのはやめなさい。
今の伊織は、私でもオススメできないわ。」

いつもにこやかな伊織くんママの、
怒ったところを初めて見た。

とてつもなく気まずい空気が流れた。

こんな空気感なのに伊織くんは、

「やっぱり結莉は、母さんのお気に入りだなー。
でも、はい。そうですね。ってあきらめないから。
それから、結莉ママ、心配しないで。
ともだちは本当にやめるし、
結莉が嫉妬を買うようなことは、しないから。ね。」

そう言って、にこりと笑った。

「ごめんね。結莉ちゃん。帰って頭冷やさせるわ…。」

伊織くんママは疲れた様子でそう言うと、
伊織くんを促し、席を立った。

ママ達は、玄関に向かったので、
一応私もそちらへ向かった。

前には制服姿の伊織くんの背中がある。

涼ほど背は高くないけど、私よりは大きくなった。

小学生のころは、私を見上げていたのに。

涼と同じ制服だけど、涼と違う背中。

私の中で、涼がスタンダードになっていることに気づいた。

ママ達がリビングを出たと同時に、
伊織くんが急に振り向き、私の顔を覗きこむように、その美しい顔を近づけた。

驚いて、少し離れたら、

「本気だからね。」

真面目な顔の伊織くんを久しぶりに見た。

その綺麗な瞳に少しうろたえながら、

「だから、ないよ。からかわないで。」

「まあ、今日は親に報告に来ただけだから。覚悟しといてね。」

そう言うと、私の返事も聞かずに、玄関に行ってしまった。
靴を履いた伊織くんは、すっかりふざけたモードに変わっていて、

「結莉またねー!」

と手をヒラヒラさせて、帰っていった。

もう、何がなんだか。

あの人の頭の中って、どうなってるの?

覚悟って何?

からかってるようにしかみえないのに、本気だっていう。

何が目的なんだろう。

あぁ。頭が痛い…。

このこと、涼に報告した方がいいよね…。

なんだか気が重くなって、部屋のベッドに転がった。
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