豊中まわり
次の日、部活を終え、片付けていると、
なんだか校門の方が騒がしい。
校門の方から走ってきた女子生徒が、
「門のところに、めっちゃカッコいい子がいるんだけど!見に行こー‼」
と、他の子達を誘っていた。
ここはあまり、男女交際が積極的な学校ではないし、
校門のところで待つ 他校生徒は、目立つだろう。
初めは、誰かの彼氏かなぁと思っていた。
一瞬涼のことが、頭をよぎった。
でも、涼は部活のはずだし、
今日会う約束はしていない。
部室から出て、帰ろうと門に向かうと、
さっきよりギャラリーが増えている。
女子達の黄色い声が響きわたる。
いったいどんなイケメンなんだろうと、
少し興味がわいて、通りすぎる時、チラ見した。
涼と同じ制服に、ドキッとした。
「あっ!結莉!帰ってなくてよかったー!」
女子の群れの中にいたのは、
茶色い髪の見覚えのある整った顔…
「伊織くん…」
一斉に、女子達の視線が 私に集まった。
「結莉っ!待ったよー。」
「ちょっと待って。待ち合わせなんてしてないし!」
「そうだっけ?まあ、そんなことどっちでもいいよ。一緒に帰ろー。」
女子の輪をくぐりぬけて、伊織くんが私の手を引っ張った。
「ちょっと、伊織くん!」
私の言うことなどまるで聞かず、強引に手を取り歩いていく。
校門の所に固まった、嫉妬と好奇の眼差しを痛いほど浴びながら、つかまれた手を離そうとした。
力を入れているのに、全然ふりほどけない。
「伊織くん!離してよ!」
「イヤだ。離したら結莉、逃げるもん。」
逃げるもん…って子供か!
伊織くんの顔はニコニコしているのに、
手の力は男の人を感じさせた。
人だかりを抜けて 手をつかんだまま強引に歩いていく。
「どこ行くの?」
「結莉の家に送って行くんだよ。」
「近いから大丈夫だよ。何か用事があったんじゃないの?」
「結莉に会いに来ただけだよ。
連絡先教えてくれないし、会う方法思いつかなかったから。」
「会いに来たって…私、家に帰るからね。どこにも行かないよ!」
「えーー。1時間も待ったのに…
ちょっと寄り道していこーよー。」
「行かない!それに、あんな所で待たないで‼
伊織くん目立つんだから。」
「じゃあ、LINEのID教えて!」
「LINEやってない。」
「じゃあ、メアドか電話番号。」
「教えない。」
伊織くんは、足を止め、じっと私の目をみつめた。
「じゃあ、また明日も明後日も、校門のとこで待ってる。」
「そんなことされたら困るよ。
私が嫌がってるの楽しんでるだけでしょう?」
「ひどいなぁ。好きになってもらえるよう努力してるんだよ。」
「じゃあ、いつ好きになったの?
私のことなんて、文化祭で会うまで忘れてたでしょ?」
本心の見えない伊織くんに
少しイライラしていた。
言動はあきらかにふざけている。
でも、行動が読めない。
少し強めに言えば、怒って、飽きて、
手を離してくれるかな…と思っていた。
それなのに、急に握った手を引き寄せられた。
離れていた体が、急に近づいた。
伊織くんは、私の目をじっと見つめて言った。
「子供のころからずっと好きだよ。」
その真剣な眼差しが信じられず、目をそらした。
「うそだ。彼女いっぱいいたでしょ。
私のことなんて、思い出しもしなかったでしょ?」
「自分から好きになったのは、結莉だけだよ。本当に。」
伊織くんに握られた手が熱い。
手を離そうと力を入れたけど、ふりほどけない。
「うそ…。」
「うそじゃないよ。結莉…こっちむいてよ。」
近付きすぎている体を離したいのに、
伊織くんは それを許してくれない。
茶色い瞳で私をのぞきこむ。
「私は、涼が好きなの。
伊織くんとは付き合えない。」
うつむいたまま、顔を隠してそう言うと、
伊織くんは、悲しそうな声で
「じゃあ、せめて、こっちむいてよ…」
と耳元で囁かれた。
もうあきらめてくれたのかと思って
顔をあげると、
急に伊織くんの顔が近付けられた。
咄嗟に空いていた左手で、
伊織くんの唇をさえぎった。
左手に伊織くんの唇が触れた。
「何するの?何考えてるの?」
伊織くんは、私の左手をゆっくりどけながら、
「キス。手をどけて。結莉。」
「やめて。イヤだ。」
もう一度、左手に力を入れて、
伊織くんを振り払った。
何考えてるの?意味がわからない。
驚きと怒りで、言葉を失っていると、
「結莉を氷上から奪うには、実力行使しかないじゃない?
結莉、ウソつけないタイプだし。
既成事実に弱そうだし。」
何の悪びれた様子もなく、ニコニコ顔の伊織くんが笑う。
その笑顔が、一番怖い。
「もう近寄らないで!絶対もう来ないで!」
伊織くんを振り切って、足早に家の方に歩きだした。
私の背中を追いかけて、声が聞こえる。
「結莉!今日のこと、氷上に言わない方がいいよ!」
私が振り返って、伊織くんをにらむと、
「サッカー部大事な試合近いらしーよ。」
「それが何?」
「氷上が怒って、オレのこと殴ったら大変でしょ。」
ヘラヘラしている伊織くんに、腹が立つ。
「最低。」
「怒った顔も綺麗だね。結莉。」
そう言った伊織くんを交差点に残して、
走って信号を渡った。
ずるい。
私のことを試している。
ずるい。
今日わかったことが二つ。
伊織くんは、もう小さい男の子じゃない。
あの頃の、優しい伊織くんは、もういない。
そして、伊織くんは、私のことは、
本気で好きではない。
なんだか校門の方が騒がしい。
校門の方から走ってきた女子生徒が、
「門のところに、めっちゃカッコいい子がいるんだけど!見に行こー‼」
と、他の子達を誘っていた。
ここはあまり、男女交際が積極的な学校ではないし、
校門のところで待つ 他校生徒は、目立つだろう。
初めは、誰かの彼氏かなぁと思っていた。
一瞬涼のことが、頭をよぎった。
でも、涼は部活のはずだし、
今日会う約束はしていない。
部室から出て、帰ろうと門に向かうと、
さっきよりギャラリーが増えている。
女子達の黄色い声が響きわたる。
いったいどんなイケメンなんだろうと、
少し興味がわいて、通りすぎる時、チラ見した。
涼と同じ制服に、ドキッとした。
「あっ!結莉!帰ってなくてよかったー!」
女子の群れの中にいたのは、
茶色い髪の見覚えのある整った顔…
「伊織くん…」
一斉に、女子達の視線が 私に集まった。
「結莉っ!待ったよー。」
「ちょっと待って。待ち合わせなんてしてないし!」
「そうだっけ?まあ、そんなことどっちでもいいよ。一緒に帰ろー。」
女子の輪をくぐりぬけて、伊織くんが私の手を引っ張った。
「ちょっと、伊織くん!」
私の言うことなどまるで聞かず、強引に手を取り歩いていく。
校門の所に固まった、嫉妬と好奇の眼差しを痛いほど浴びながら、つかまれた手を離そうとした。
力を入れているのに、全然ふりほどけない。
「伊織くん!離してよ!」
「イヤだ。離したら結莉、逃げるもん。」
逃げるもん…って子供か!
伊織くんの顔はニコニコしているのに、
手の力は男の人を感じさせた。
人だかりを抜けて 手をつかんだまま強引に歩いていく。
「どこ行くの?」
「結莉の家に送って行くんだよ。」
「近いから大丈夫だよ。何か用事があったんじゃないの?」
「結莉に会いに来ただけだよ。
連絡先教えてくれないし、会う方法思いつかなかったから。」
「会いに来たって…私、家に帰るからね。どこにも行かないよ!」
「えーー。1時間も待ったのに…
ちょっと寄り道していこーよー。」
「行かない!それに、あんな所で待たないで‼
伊織くん目立つんだから。」
「じゃあ、LINEのID教えて!」
「LINEやってない。」
「じゃあ、メアドか電話番号。」
「教えない。」
伊織くんは、足を止め、じっと私の目をみつめた。
「じゃあ、また明日も明後日も、校門のとこで待ってる。」
「そんなことされたら困るよ。
私が嫌がってるの楽しんでるだけでしょう?」
「ひどいなぁ。好きになってもらえるよう努力してるんだよ。」
「じゃあ、いつ好きになったの?
私のことなんて、文化祭で会うまで忘れてたでしょ?」
本心の見えない伊織くんに
少しイライラしていた。
言動はあきらかにふざけている。
でも、行動が読めない。
少し強めに言えば、怒って、飽きて、
手を離してくれるかな…と思っていた。
それなのに、急に握った手を引き寄せられた。
離れていた体が、急に近づいた。
伊織くんは、私の目をじっと見つめて言った。
「子供のころからずっと好きだよ。」
その真剣な眼差しが信じられず、目をそらした。
「うそだ。彼女いっぱいいたでしょ。
私のことなんて、思い出しもしなかったでしょ?」
「自分から好きになったのは、結莉だけだよ。本当に。」
伊織くんに握られた手が熱い。
手を離そうと力を入れたけど、ふりほどけない。
「うそ…。」
「うそじゃないよ。結莉…こっちむいてよ。」
近付きすぎている体を離したいのに、
伊織くんは それを許してくれない。
茶色い瞳で私をのぞきこむ。
「私は、涼が好きなの。
伊織くんとは付き合えない。」
うつむいたまま、顔を隠してそう言うと、
伊織くんは、悲しそうな声で
「じゃあ、せめて、こっちむいてよ…」
と耳元で囁かれた。
もうあきらめてくれたのかと思って
顔をあげると、
急に伊織くんの顔が近付けられた。
咄嗟に空いていた左手で、
伊織くんの唇をさえぎった。
左手に伊織くんの唇が触れた。
「何するの?何考えてるの?」
伊織くんは、私の左手をゆっくりどけながら、
「キス。手をどけて。結莉。」
「やめて。イヤだ。」
もう一度、左手に力を入れて、
伊織くんを振り払った。
何考えてるの?意味がわからない。
驚きと怒りで、言葉を失っていると、
「結莉を氷上から奪うには、実力行使しかないじゃない?
結莉、ウソつけないタイプだし。
既成事実に弱そうだし。」
何の悪びれた様子もなく、ニコニコ顔の伊織くんが笑う。
その笑顔が、一番怖い。
「もう近寄らないで!絶対もう来ないで!」
伊織くんを振り切って、足早に家の方に歩きだした。
私の背中を追いかけて、声が聞こえる。
「結莉!今日のこと、氷上に言わない方がいいよ!」
私が振り返って、伊織くんをにらむと、
「サッカー部大事な試合近いらしーよ。」
「それが何?」
「氷上が怒って、オレのこと殴ったら大変でしょ。」
ヘラヘラしている伊織くんに、腹が立つ。
「最低。」
「怒った顔も綺麗だね。結莉。」
そう言った伊織くんを交差点に残して、
走って信号を渡った。
ずるい。
私のことを試している。
ずるい。
今日わかったことが二つ。
伊織くんは、もう小さい男の子じゃない。
あの頃の、優しい伊織くんは、もういない。
そして、伊織くんは、私のことは、
本気で好きではない。