豊中まわり
「逃げれる?」

涼は、真剣な眼差しで私を見つめる。

ベッドに押し倒されて、涼の体と顔が近い。

鼓動が早くなる。

「涼なら、逃げる必要ないし…。」

見つめられた目に照れながらそういうと、

涼は、少し照れて、表情が和らいだ。

「今、そういうんじゃなくて、俺が長瀬だと思って、逃げてみて。」

涼のことを、伊織君とは思えないけど、一応手に力を入れた。

全然動かない。両手をもたれて、身動きができない。

涼は片手しか使っていないというのに。

本気で力を入れてみたけれど、起き上がれない。

びくともしない。

「逃げれる?逃げれないでしょ。」

無言でうなずくと、涼が手の力をゆるめた。

「長瀬が本気で結莉を襲おうと思ったら、逃げられないんだよ。」

「襲うなんて…」

「今日だって、危なかっただろ?」

少し荒ぶった涼の声に驚いた。

「ごめん……俺、結莉のことになると、嫌なことがいっぱいになる…。」

嫌なこと……やっぱり私、嫌なところがいっぱいあるんだ。

涼を嫌な気持ちにさせてる張本人は、私なんだ…。

こんなにキラキラしている人を、嫌な気持ちにさせて、だめなんだ。私って。

体が重たくなった。暗い気持ちが心を覆う。


体を起こし、顔をそむけたまま、小さな声を振り絞って聞いてみた。

「嫌な思いさせて ごめんね‥‥嫌いになった?」

すると、

「どうやって、嫌いになるんだよ!」

涼は、そのまま私を抱きしめた。

「俺以外、誰にも触れさせて欲しくない。誰にも見られたくない。話すのも、笑いかけられるのも、俺だけならいいのに…。嫌なことがいっぱいだよ…カッコ悪い。」

涼の表情は見えないけれど、その小さく せつない声にめまいがした。 

「俺……独占欲強いみたい。ごめん。幻滅だよな。」

涼は、そういうと、体を離した。

あまりに意外な涼の言葉に、頭がついていかない。

「結莉が誰と話したって、好きになったって、結莉の自由だって、頭ではわかってるんだ…。」

そう言ってうつむいた。

涼は、いつだって私の心をあたたかくしてくれる。

うつむいたまま、声を絞り出すように、涼は続けた。

「でも、長瀬が結莉の手に触れたかと思うと、もしキスされてたかと思うと、頭がおかしくなりそうになる…。」

涼が私のこと、そんな風に思ってくれているなんて、信じられない。

やきもち…ってことだよね。これ。

涼が やきもちやいてくれるなんて…うれしすぎる。

「うれしい…」
 
しまった。心の声がもれた。

涼が顔をあげる。

「え?何が?」

「涼が、ちょっと嫉妬してくれたことが…。」

涼が、ため息をつきながら私を見る。

「結莉…ちょっとじゃないよ。かなりだよ。」

「かなりなの?」

「重症だよ。どうしてくれんの?」

「どうしたらいい?」

そう言った私をひきよせ、唇を奪われた。

長いキスのあと、少し体を離した。

「絶対に俺だけ。わかった?」

「うん‥‥。」

涼の言葉に、もう頭が働かない。
もう、このまま、どうなってもいいと思った。

「涼‥‥好き‥‥大好き。」

伊織くんなんて関係ない。

私が好きなのは涼だけ。

涼と、この先に進めば、何も心配いらないんじゃないか。

そんなことを思って涼に身を預けた。

制服のブラウスのボタンがひとつずつ外されていく。

涼は私の唇に耳に首筋に触れていく。

頭も体も熱くて、何も考えられない。

ブラジャーのホックを外されて、生まれて初めてそこに直接触れられた。

涼の日に焼けた手が私に優しく触れる。

「あっ‥‥」

思わず声が出た。

涼は優しく微笑むと、からだじゅうにキスをした。

くすぐったいのに、気持ちいい。

次にどこに触れられるか予測不可能で、息つく間もなくキスされる。

だんだん呼吸が短くなる。

「りょう‥‥ダメ‥‥息できない‥‥」

そう言ったのに、また唇を奪われて 吐息を閉じ込められた。

ふいに、スカートの中に涼の手を感じて、それが、下着の中に入ってきた。

「りょ‥‥そんなこと汚いよ。」

「汚くないよ。」

「ダメ‥‥恥ずかしい‥‥」

「触らなきゃできないよ。」

そう言って、指を動かす。

指を動かされる度に、今まで経験したことのない感覚が私を襲う。

「んん‥‥はぁ‥‥あっ‥‥」

頭がおかしくなる。その時、

ガシャガシャ

一階の玄関で鍵の開いた音がクリアに聞こえた。

一瞬で空気が一変した。

「誰か帰ってきた。ヤバいかも。」

「マジで?」

お互いに半裸で、制服は ぐしゃぐしゃ。
ヤバい。

「ゆうりー。ただいまー。」

やっぱりママだ。そんな時間?

ブラジャーをしながら

「おかえりー。部屋にいるからー。」

と、不自然に大きい声で答えた。

「氷上くん来てるんでしょー?」

と階段を昇る音が聞こえる。

あわててブラウスを着ようとしても、焦ってボタンがとまらない。

「ゆうりー?開けるわよー。」

ガシャ

「何、ゆうり。部屋の中でジャケット着て暑くないの?氷上くん。こんにちは。」

間一髪間に合った。

ブラウスは下のボタンが間に合わず、椅子にかけておいたジャケットを前で閉めた。

不自然に二人とも床に座っている。

「こんにちは。勝手にお邪魔してすいません。」

涼は、さっきまであんなことしていたのに、顔色ひとつ変えず、なぜか制服のシャツを完璧に着ている。

「いいのよー。ゆうりから連絡あったし、いつでもどうぞー。じゃあ、ママ下にいるから。」

階段を降りていく足音が聞こえる。

「ヤバかったね。」

「焦ったぁ。俺、あんなに早く服着たのはじめて。」

「涼は完璧に着ててずるいよ。私なんて、ブラウスのボタンぜんぜんとめれてない。不自然にジャケットだし。」

ジャケットを脱いで、ブラウスのボタンをとめはじめると、

「じゃあ、とめてあげるよ。」

そう言って、無言でボタンをはめていく。

また、私の鼓動が早くなる。

「ありがと。」

「本当は、また全部外していきたけどね。」

「えっ?」

「うそうそ。今日はもう我慢しとく。」

「また、今度ね。」

「……やばい。俺今日眠れないかも…。」

「私も……。」





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