豊中まわり
教室に入って、席に着くと、後ろから親友のコウに話しかけられた。

「朝からイラついてんな。」

「あぁ。コウ。おはよう。」

「見てたよ。殴る前に止めようとは思ってたけど。」

「あぁ。見てたのか‥‥」

「二人とも目立つしな。あの彼女のこと、長瀬まだ頑張ってるの?」

「あぁ。『明日にはオレのこと好きになってるかも』だってさ。痛いとこつくよな。」

「大丈夫なんだろ?」

「余裕はないよ。いつも必死。あぁーーー。」

「まぁ、あの子は、男心くすぐるタイプだよな。」

「えっ?」

女になんか全く興味のなさそうなコウの言葉に驚いた。

「変な意味じゃなくて。」

「どういう意味?」

「自分に自信がなさそうな美人ってなかなか いない。」

「あーー。」

「涼や長瀬みたいに自分に自信のあるやつは勿論、自分に自信のないやつも、はまっていくだろうな。馬鹿にされないから。」

一瞬、周防の顔が頭をよぎった。

小6の時、ひょろくて早口の周防に、唯一話しかけていたのは、結莉だった。

あんなことされて、惚れない男子はいないだろう。

結莉の気持ちは聞いていないが、周防はずっと好きに違いない。

「自信ないやつも、自信つくよな。」

妙に自信たっぷりな大人周防を思いだし、ムカついた。

「賢くて美人って、人を下にみるのが普通だから、お前の彼女は稀有だな。」

「けう?」

「めったにいない ってこと。一度好きになったら、次、見つけられなさそう。」

「次とかないよ。結莉以外、考えられない。このまま一生、結莉だけ。結莉がいればいい。」

「朝からあついな。涼。それは本人に言えよ。俺に言われてもな。」

「言えるか!ただでさえプチストーカーなのに。」

「プチか?」

「いや、ガッチリストーカーかな。」

「ライバルもじゃない?」

「何が?」

「他は考えられない。」

「そうかも‥‥」

「相当数いそうだけどな。彼女の学校共学だろ?」

「学校にもいるよなー。きっと。」

「教室にもいっぱいいるだろーな。熱い視線を送ってるやつ。」

一瞬で、結莉が教室で横の男に ノートを見せている情景が思い浮かんだ。

「あぁぁぁ。誰にも見せたくない。」

「物理的にムリだな。がんばれよ。」

コウは、ぽんと肩を叩いて、自分の席に帰っていった。

俺のクラスは、運動部だけ集められたクラスだから、女子はいない。

野球部とサッカー部ばかりで大変男臭い。

でも、教室にいる間は うるさい女子に話しかけられないので、むしろ居心地はいい。

他のクラスより一時間短めに終わり、バスで専用グランドに行くので、他クラスとの交流は、イベントの時に限られていた。

もちろん、休み時間に女子から呼び出されて告白されるのは日常茶飯事。

俺だけでなく、類い稀な運動神経を持ったクラスメイトも、よくモテる。

皆、小さい頃からサッカーや野球をやってきたやつばかりなので、ノリも話も合う。

俺にとってこの学校は居心地がいい。

しかし、結莉のクラスはどうだろう。

共学で、クラスの半分は男子だろう。

結莉と同じ学校なのだから、当然皆、俺より賢いはずだ。

勝手な偏見だが、頭が良い高校の方が、顔のいい女子の比率は下がる気がする。

だから、きっと結莉は かなり目立つ存在だろう。

彼氏がいるといっても、入学して2ヶ月ほどはいなかったわけだし、その間に 結莉に惚れたやつは 相当数いるだろう。

あぁ。なんで俺は、卒業式にちゃんと告白しておかなかったんだ。

自分のへたれさに、またイヤになった。
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