豊中まわり
コウが席に戻ってしまったので、自分の席でうなだれていると、

隣の席の野球部のやつが、遅刻ギリギリに滑り込んできた。

「あぶなかったーー。ちょっとダッシュしたわ。汗だく。」

「ギリだな。寝坊?」

坊主頭のクラスメイトは、野球部の重いカバンを机に下ろしながら、ため息をついた。

「あぁ。昨日彼女とちょっともめて、寝るの遅くなった。」

「えっ!彼女とケンカしたの?」

先生が教室に入ってきたが、そんなことおかまいなしに話を続けた。
坊主頭なのに、イケメンな野球少年は、頭をガシガシかきながら、

「なんか嫉妬?みたいなかんじで怒ってて。何回も続くとおれもめんどうになってきてさ……。どうしようかな……と。」

「別れんの?でも、彼女は悪くないんじゃないの?」

「まぁ、そうなんだけど。学校帰りにたまたま同じ学校の女子と一緒になることあるじゃん?その流れで一緒に帰ったところを、彼女の友達が見つけて、写真拡散されてさ。で、私の立場は……とか、私のことどう思ってるの?とか、エンドレスで。めんどくさくなってきちゃった。」

「一緒に帰らなきゃいいじゃん。」

「でも、たまたまずっと一緒なこととかあるじゃん。」

「二人きりになる前に、『じゃ』って言って別行動できたんじゃない?」

俺なら確実にそうする。っていうか、女子がいるとわかった瞬間、音楽を聞き始める。

「氷上……。お前、噂には聞いてたけどすごいな。」

「何が?」

「氷上さ、彼女以外の女の子と、遊んでみたいなーとか思わないの?」

「全然。めんどくさい。」

「もしかして、小5から好きって噂、あれマジなの?」

「なんで皆、知ってんの?本当だけど、なんかおかしいの?」

「ずっと?その子だけ?」

意外な反応に少しイラッとした。

「そうだけど。」

「マジで――。イケメンすぎて怖いわ。いや、むしろイケメンの無駄づかい!」

「なんで俺の話になるんだよ。」

「いや、普通は、おれくらいのモテレベルでも、かわいい子がいたら、話してみたくなるし、彼女がいても、めんどくさくなってきたら、他の子に目移りするもんなの。だって、可愛い子いっぱいいるじゃーーん。なのに、最高モテレベルの氷上が、なぜ、なぜゆえに 一人が独占できるのか?って話よ。氷上なら誰でもいけるだろ。他の子好きになったことないの?」

「ない。」

「一度も?」

「だから、ないって。」

「究極のイケメンだな。おい。彼女ラッキーだな。」

「違うよ。俺がラッキーなの。全然独占できてないし。」

きれいな目をまるくした坊主頭が、無言で俺を見つめた。

「‥‥氷上‥‥おれ、お前の彼女になりたいわ。」

「気持ち悪いこと言うなよ。」

俺がちょっと机を離した瞬間、

「そこーー。さっきからうるさいぞーー。」

先生の声が飛んできた。
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