豊中まわり
氷上 涼

初恋

日曜日の夜だった。

晩御飯をリビングで食べた後、

自分の部屋に戻ってベットに寝そべった。

高校生になってから2ヶ月弱。

クラスメイトにも、サッカー部の仲間にもようやく慣れた。

普段はサッカーの試合や練習で 土日もつぶれることが多い。

たまたまのオフをのんびり過ごしていた。

やることもなくスマホに手をやり、いつもの連絡先を眺めてしまう。

深瀬結莉

連絡など来るわけもないのに。


深瀬のことを意識するようになったのは、小学5年の春だった。

4年の時、他のクラスに 頭のいい女子の転校生が転入したことは 知っていた。

サッカークラブの仲間が騒いでいたから。

でも頭のいいやつって、俺はちょっと苦手だった。
興味もなかった。

サッカーばかりやってる俺は、頭のいいやつと話が合ったためしがない。

あと偏見もあった。

どうせ眼鏡で本ばかり読んでて、地味で暗いやつ。

だから クラス替えで初めて深瀬を見たとき、

衝撃だったんだ。

スラリと背が高く、色白で、少し茶色い髪。

派手な顔ではないが、吸い込まれるような透明感があった。

今思えば一目惚れだった。

席に着くと深瀬が俺の後ろだった。

深瀬の隣がたまたま知ってるやつだったので、そいつに話かけつつ、好奇心から 深瀬にしゃべりかけた。

その時の俺は、この胸のドキドキが 恋と 認識できていない。

テンションだけが上がってしまって、いつも後ろを向いてしゃべっていた俺は、深瀬には、うるさい男子くらいにしか思われなかっただろう。

深瀬となんとか喋りたくて、休み時間のほとんどを横を向いて過ごした。

それまで20分休みは、友達とサッカーが定番だったが、深瀬が女子の輪に入らず、席にいるときは、必ず話しかけた。

色々話していくうち、俺はもっと深瀬にはまっていった。

こんなに興味がわくのは、サッカー以外では初めての感覚だった。

深瀬結莉。性格は大人しい。趣味は読書。リーダー的なタイプではないが、クラスメイトは皆、深瀬に一目おいていた。

勉強ができる。教えるのがうまい。料理もできる。服装もおしゃれ。年中ジャージか短パンの俺とは大違い。

大きな声注意してきたり、小声で友達同士耳打ちするようなタイプではなかった。

俺に喋りかけてくる女子は、ほとんどそのタイプで、俺はこのタイプが大嫌い。

だから余計 深瀬ひとり、際立って見えた。

密かに深瀬を好きなやつは 俺以外にもたくさんいるようだった。

その分だけ女子の嫉妬もかっていた。

深瀬は、誰にでも優しいが、誰にも興味がないようにも見えた。

本を読んでるやつなんて暗い なんて認識が間違ってることに気づかされた。

深瀬の本を読む姿は美しかった。

ちょっとしゃべりかけられない雰囲気があった。

本を読まない自分を恥じた。

どうしても話したくて、

「何読んでるの?
面白いの?」と声をかけたこともある。

深瀬は少し微笑んで、

「読んでみる?」

と、本を貸してくれた。

3日がかりで必死に読んだが、ミステリーモノで半分も理解できなかった。

「面白かったよ。」

と言って、俺が本を返すと、

クスクスと笑いながら本を受け取る深瀬が 可愛かった。

深瀬は何でもお見通しだ。
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