豊中まわり

パニック

カラオケは悪夢だった。

6人のわりには、狭めの部屋には、私には見知らぬ人が3人。私に敵意を抱いている人が1人。

この上なく居心地が悪い。

ただでさえ男子は苦手なのに。

どうやら私の前に座った、コーラばかりのんでいる男子が私に用意された彼氏候補のようだった。

確かに私は彼氏がいないけど、いたこともないけど、告白されたことがないわけではない。

小学校の卒業式。

中学校の行事の前後。

中学校の卒業式。

スマホを持ってなかった私には、直接告白してくれる人もいれば、人伝えで真偽のわからないものもあった。

でも昔から、私のことを好きな人には、その人のことを私より大好きな女子がいて、その関係性がしんどくて、距離をとったり断ったりしていた。

いいかなぁと思っても

私より‘好き’をアピールしている女子がいれば、気持ちを表に出さなかった。

強い女子に攻撃に会うくらいなら、勉強や本を読んでいる方が楽しかった。

コーラ君
あなたは本も読まない、スマホと友達のツキアイが大事な世界の住人ですよね…

「ゆりちゃんは、ユーチューバーだと誰派?」

「ごめん。私、あんまり詳しくなくて‥‥。」

「えっ?ユーチューブ見ないの?まじで!?人生絶対に損してるって。俺がオススメ教えてあげるよ。」

「えっ。いいよ。私、画面長く見てると頭痛くなってくるし。」

「まじで!普段何して生きてんの?」

謎の上から目線にかなり腹は立ったが、

「本読んだり‥‥」

別に聞いてもらわなくて結構なので小さな声で言ったら、

「本?字のやつ?マンガじゃなくて?」

「マンガも読むよ。」

「だよねー。字のやつなんか、小学校の読書感想文以来読んだことないわ。いや‥‥あれも、最初と最後だけ読んだんだっけ?覚えてないわ。ジャンプ、今持ってるし貸そっか?」

「いいよ‥‥ありがとう‥‥」

少し話しても、会話が成り立たない…。

高校生って、本当に本読まないんだ。

新聞にそんな記事が出ていたことを思い出した。

本って字のやつ?は衝撃だな。

話が合わない…。帰りたい…。

なんて黒いこと思っていたら、里桜が私のノリの悪さにイラつきだし席替えを提案した。


案の定、目の前のコーラ君が私の隣にきた。

中身のない話が続く。

私もあなたの名前覚えてないけど、私の名前もずっと間違ってる。

私の名前はゆうり‼

さっきからゆりちゃんゆりちゃんってうるさい‼

もうすぐ2時間、もう帰ろう‼

そう思った瞬間、ソファーに置いていた私の手に何かが触れた。

見ると、コーラ君の手が私の手の上に乗っかっている。

一瞬、かたまった。

何これ偶然?

あわてて振り払うのも悪いかと思って、コーラ君の顔を見ると、イヤらしい笑顔をこちらに向けて、更にぎゅっと握られた。

ぞっとした。

びっくりして、気持ち悪くて、してやったりの里桜の顔を見て、頭が真っ白になった。

なんで、いきなり 友達でもないのに、手を触られるの。

高校生って、こんな感じなの?

気持ち悪い。気持ち悪い。

「お手洗い行ってくる」

その場から離れる理由がそれしか思い付かず、手を離し、カバンを持ってトイレに向かった。

どうしよう。

気持ち悪い。

このまま帰ろう。里桜には後でメールしとこう。

2時間はつきあったし。

そう決めてトイレから出ようと扉を少し開けた。

しかそ、外の人影を見て、あわてて扉を閉めた。

ヤバイ‼コーラ君が出待ちしてる。

このまま出たら、どこかに連れて行かれる?

どうしよう。逃げられない。どうしよう。

もう一度トイレの個室に戻り鍵をかけた。

私はパニックになっていた。

高校入学祝に買ってもらったスマホを出して、連絡先をだした。

里桜やあいらに連絡したって無駄だ。

親に連絡して迎えにきてもらおうか…

でも、ママ心配するだろうな…

友達…

高校からの友達はどこに住んでるかもまだ知らない。

どうしよう…どうしよう…

スクロールしていくと

氷上 涼

そうだ氷上なら…

思わず電話番号を押していた。



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