豊中まわり
部活が終わり、急いで着替えて自転車を飛ばした。
帰り道はずっとゆるやかな坂道で地味に辛い。
でも、深瀬に会えるうれしさで距離は短く感じた。
深瀬の高校はよく知っている。
ここらへんに住んでいてこの高校を知らないやつはいない。
学校前に女子しか入れなさそうなピンクな外観のパン屋があって、母さんが時々買ってくる。
地元では有名なパン屋らしい。
いつも腹が減っている俺は、買ってあると、弟と2~3個バクバク食ってしまう。
クリームパンが俺のお気に入り。
「高いんだから味わって食べなさい!」
といつも怒られる。
パン屋はもう、閉まっていたが、バス停のベンチがあるので、自転車を停めて座り、深瀬にメールを送った。
もう薄暗く、校門からは部活終わりの学生がまばらに出てくる。
他校の制服が目立つのか、ジロジロみてくるやつもいた。
5年もぐずぐずしていた俺が、
昨日まで、深瀬の視界に入ることさえできなかったこの俺が、彼氏として深瀬を待つ日が来るなんて‥‥。
手のひらがムズムズした。
すぐに、愛しの彼女があらわれた。
遠くからでもわかる。
白い肌に薄茶の髪。
「ごめん。来てもらって。」
来たかったのは俺なのに。
本当に綺麗だな…
本当に深瀬が俺に笑いかけている。
信じられない。急に緊張してきた。
本人を目の前にすると、言葉が出てこない。
「か‥帰り道だし。話したかったし。」
俺!どれだけ緊張するんだ。
サッカーの試合ではどんな場面でも緊張したことなんてない。
でも、深瀬の前では信じられないくらいあがってしまう。
思っていることの10分の1も伝えられない。
さすがに校門前のベンチでは、視線を感じて落ち着かないので、座れる公園へ向かった。
さっきから、全然言葉が出てこない。
どうしよう。どうすんだ!俺!
今日はたくさん伝えることがあるんだろ!
ベンチに座ったのに話せない気まずい雰囲気に、深瀬が話始めた。
「なんか照れるね。あっ、私だけかな。
制服、初めて見た。びっくりしちゃった。
学校ですごいモテるでしょー。
またファンクラブとかあったりして。」
一瞬二人で固まった。
深瀬が更に気まずそうな顔をしている。
「深瀬の方が…」
綺麗で、モテるのなんて当たり前で、
釘図けになったのは俺の方で…
でもそんな事は今言わなくちゃいけないことじゃない。
「中学の時…ファンクラブとか言ってるうるさい女子達が…深瀬に何か言ってることに気づいて…」
気付いてて何もできなかったんだ。
「俺が深瀬を好きなこと、友達が言っちゃって…」
篤人のせいじゃない。
俺に勇気がなかったんだ。
「俺が好きなことで深瀬に迷惑かけて…
深瀬に迷惑かけるなら、話しかけない方がいいと思って我慢してた。」
ただの自己満足だ。
深瀬は関係ないのに巻き込まれて
嫌な思いをしたんだ。
「でも、卒業したらもう会えない。
高校も違うし。
だから卒業までに気持ち伝えたかった。
俺のせいで嫌な思いさせたこと謝りたかった。
でも、チャンスも勇気もなくて。
結局、卒業式に連絡先しか渡せなかった…
あの時は、嫌な思いさせてごめんな。」
深瀬はどう思っているだろう。
顔を見るのが怖かった。
「ううん。氷上が悪いわけじゃないし。」
小さな声で首を横にふる深瀬は泣きそうに見えた。
やっぱりずっとツラい思いをさせていたんだ。
「でも、助けてあげられなかった。
あの頃の俺はどうしていいかわからなかった。」
本当に子供だったんだ。俺は。
大切な子の守りかたも知らず、ただ逃げたんだ。
片思いなんて都合のいい言葉で自分に折り合いをつけて。
「私は…私が好きなことがバレて、にらまれてるんだって思ってた。
だから氷上が私と話さないようにしてたのは、気持ちに応えられないからだと思ってた。」
深瀬の意外な言葉に胸が高鳴った。
深瀬もあのころから俺のこと好きでいてくれったってこと?
本当に?気持ちに応えられない‥‥って、とんだすれ違いじゃないか。
「意外に両思いだったんだね。」
と言って、俺の顔を少し赤い目で見る深瀬がいとおしくて、今までの暗い思い出が急に色づいたように思えて
深瀬が好きで…好きで…好きで…
無意識に 深瀬を抱きしめていた。
自分の大胆な行動に、自分が一番びっくりしていた。
「うそじゃないよね?
深瀬は俺のこと何とも思ってないってずっと思ってたから。昨日もパニックでたまたまOKしてくれたんじゃないかって。」
少しからだを離して、深瀬の顔をみた。
「ずっと好きなんだ…。だからつきあって欲しい。
昨日ちゃんと言えなかったから。」
ずっとずっとずっと言えなかった気持ちがようやく言えた。
「私も…好きです。付き合って下さい。」
二人で顔を見合わせて笑った。
深瀬の最高の笑顔が見れた。
帰り道はずっとゆるやかな坂道で地味に辛い。
でも、深瀬に会えるうれしさで距離は短く感じた。
深瀬の高校はよく知っている。
ここらへんに住んでいてこの高校を知らないやつはいない。
学校前に女子しか入れなさそうなピンクな外観のパン屋があって、母さんが時々買ってくる。
地元では有名なパン屋らしい。
いつも腹が減っている俺は、買ってあると、弟と2~3個バクバク食ってしまう。
クリームパンが俺のお気に入り。
「高いんだから味わって食べなさい!」
といつも怒られる。
パン屋はもう、閉まっていたが、バス停のベンチがあるので、自転車を停めて座り、深瀬にメールを送った。
もう薄暗く、校門からは部活終わりの学生がまばらに出てくる。
他校の制服が目立つのか、ジロジロみてくるやつもいた。
5年もぐずぐずしていた俺が、
昨日まで、深瀬の視界に入ることさえできなかったこの俺が、彼氏として深瀬を待つ日が来るなんて‥‥。
手のひらがムズムズした。
すぐに、愛しの彼女があらわれた。
遠くからでもわかる。
白い肌に薄茶の髪。
「ごめん。来てもらって。」
来たかったのは俺なのに。
本当に綺麗だな…
本当に深瀬が俺に笑いかけている。
信じられない。急に緊張してきた。
本人を目の前にすると、言葉が出てこない。
「か‥帰り道だし。話したかったし。」
俺!どれだけ緊張するんだ。
サッカーの試合ではどんな場面でも緊張したことなんてない。
でも、深瀬の前では信じられないくらいあがってしまう。
思っていることの10分の1も伝えられない。
さすがに校門前のベンチでは、視線を感じて落ち着かないので、座れる公園へ向かった。
さっきから、全然言葉が出てこない。
どうしよう。どうすんだ!俺!
今日はたくさん伝えることがあるんだろ!
ベンチに座ったのに話せない気まずい雰囲気に、深瀬が話始めた。
「なんか照れるね。あっ、私だけかな。
制服、初めて見た。びっくりしちゃった。
学校ですごいモテるでしょー。
またファンクラブとかあったりして。」
一瞬二人で固まった。
深瀬が更に気まずそうな顔をしている。
「深瀬の方が…」
綺麗で、モテるのなんて当たり前で、
釘図けになったのは俺の方で…
でもそんな事は今言わなくちゃいけないことじゃない。
「中学の時…ファンクラブとか言ってるうるさい女子達が…深瀬に何か言ってることに気づいて…」
気付いてて何もできなかったんだ。
「俺が深瀬を好きなこと、友達が言っちゃって…」
篤人のせいじゃない。
俺に勇気がなかったんだ。
「俺が好きなことで深瀬に迷惑かけて…
深瀬に迷惑かけるなら、話しかけない方がいいと思って我慢してた。」
ただの自己満足だ。
深瀬は関係ないのに巻き込まれて
嫌な思いをしたんだ。
「でも、卒業したらもう会えない。
高校も違うし。
だから卒業までに気持ち伝えたかった。
俺のせいで嫌な思いさせたこと謝りたかった。
でも、チャンスも勇気もなくて。
結局、卒業式に連絡先しか渡せなかった…
あの時は、嫌な思いさせてごめんな。」
深瀬はどう思っているだろう。
顔を見るのが怖かった。
「ううん。氷上が悪いわけじゃないし。」
小さな声で首を横にふる深瀬は泣きそうに見えた。
やっぱりずっとツラい思いをさせていたんだ。
「でも、助けてあげられなかった。
あの頃の俺はどうしていいかわからなかった。」
本当に子供だったんだ。俺は。
大切な子の守りかたも知らず、ただ逃げたんだ。
片思いなんて都合のいい言葉で自分に折り合いをつけて。
「私は…私が好きなことがバレて、にらまれてるんだって思ってた。
だから氷上が私と話さないようにしてたのは、気持ちに応えられないからだと思ってた。」
深瀬の意外な言葉に胸が高鳴った。
深瀬もあのころから俺のこと好きでいてくれったってこと?
本当に?気持ちに応えられない‥‥って、とんだすれ違いじゃないか。
「意外に両思いだったんだね。」
と言って、俺の顔を少し赤い目で見る深瀬がいとおしくて、今までの暗い思い出が急に色づいたように思えて
深瀬が好きで…好きで…好きで…
無意識に 深瀬を抱きしめていた。
自分の大胆な行動に、自分が一番びっくりしていた。
「うそじゃないよね?
深瀬は俺のこと何とも思ってないってずっと思ってたから。昨日もパニックでたまたまOKしてくれたんじゃないかって。」
少しからだを離して、深瀬の顔をみた。
「ずっと好きなんだ…。だからつきあって欲しい。
昨日ちゃんと言えなかったから。」
ずっとずっとずっと言えなかった気持ちがようやく言えた。
「私も…好きです。付き合って下さい。」
二人で顔を見合わせて笑った。
深瀬の最高の笑顔が見れた。