豊中まわり

初恋


僕は人生で初めて学校が楽しかった。

学校へ行くと深瀬がいる。

4月は、前の席の氷上とよくしゃべっていたが、席替えので僕の隣に深瀬が来た。

「周防君、よろしくね。」

と微笑む深瀬に胸が高鳴った。

窓側の一番後ろの席は最高だった。

しゃべってみると深瀬はけっこう面白い子だった。

僕の会話も余裕で理解する。

やっぱり他が低レベルだったんだ。

最初は塾の話題で盛り上がった。

国語の先生が同じで、雑談が多いこととか、前回のテストで間違えた問題とか。

驚いたのは深瀬の勉強時間だった。

宿題以外はの勉強は、朝30分しかしないらしい。

僕なんて物心ついたころから、いつも勉強している。

させられている…といった方が的確か。

しかも塾は週に2回だけで、残りの日は友達と遊んだり読書をしたりしているらしい。

読書が好き…といっても、小学校女子など だいたいマンガか 恋愛系ライトノベル だと決めつけていたが、深瀬は違った。

そういった類いも読むらしいが、なんせ無類の ミステリー好き。

初めは 小2で 名探偵コナン にはまったことから、関連本を読みあさり、今は 大人向けや 海外ものまで読んでいるらしい。

母親に本ジャンキーだと言われて、早く寝るよう怒られると言っていた。

寝る時間も早い。

9時就寝と聞いて、自分の才能のなさに 気付いた。

僕は 11時すぎまで勉強している。

朝は眠くてたまらない。

学校など行くのも面倒だった。

深瀬のことを知れば知るほど好きになっていった。

深瀬のどんな小さなことでも知りたかった。

深瀬ばかり見ていると、彼女の回りの色んなことが見えてきた。

深瀬はとても優しい。

算数の授業では問題が早く終わると、わからないやつに解き方を教えなくてはいけない という学校特有のルールがある。

なんで こんな問題が わからないのか 理解できない僕は、基本的にこれをしない。

でも深瀬は、どんなやつにでも丁寧に教える。

答えは決して言わずに分かりやすく導く。

先生よりわかりやすい。

僕の見ている限り男女平等に。

深瀬は人に優劣をつけない。

僕にできないことだ。

しかしこれで困ったことが起こる。

丁寧に教えてもらった男子は深瀬が好きになる(少なくとも僕にはそう見える)

その男子のことが好きな女子がいる場合、女子は深瀬に嫉妬する。

深瀬にとっては とばっちりだ。

勘のいい深瀬はそれを感じ取り、
結果、女友達としか話せなくなる。

あんなに4月親しげだった氷上と距離をおいているのも、氷上を好きそうな女子に気を遣ってのことだろう。

人間関係にここまで興味を持てたのは初めてだった。

今までの僕は他人に興味がなかったので、感情に欠落部分があるのだと思っていた。

僕にもちゃんと感情があることに気付けた。

深瀬を好きだという感情にも。






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