豊中まわり
「深瀬はなんで公立にいくの?」

聞きたかったけど今まで聞けなかったことだ。
深瀬は少し考えて

「近いから…」

と驚きの発言をした。

「えっ‼それだけ?」

僕と山上先生が同時につっこみを入れた。

「もちろんそれだけじゃないよ。
でも私立ってどこも電車通学のとこが多いし。
女子校は行きたくないし…
男子校は超進学校多いじゃない?
でも女子は女子校を省くと選択肢が少ないから、それなら近い方がいいかな…って。
勉強はどこでもできるし!」

深瀬っぽい。唖然とした。

「周防君はどうやって通うの?第一志望遠いとこだよね…」

「僕は、パ…父の実家から通うんだ。奈良に実家があって、受験するのは父の出身校で、中学も高校も小さい時から決められてる。
大学はまたこっちに戻ってくる予定だけど…」

「引っ越すの?」

驚いたように深瀬が聞く。

「僕一人で行くんだ。祖父母がいるしね。」

これは我が家では昔から言われていたことなので、不思議に思ったことはない。

深瀬が考えて、話始めた。

「周防君は、将来の夢がちゃんと目標になってるんだね。
いいなぁ。
私はイマイチ〝絶対なりたいもの〟がないんだよね。
得意な事も才能もないし…」

これには先生も僕もつっこんだ。

「勉強得意だろ!」

「いや…得意なことがなくて勉強してたら、たまたまいい成績とれた…ってだけで。
ピアノも弾けないし、運動も普通だし…外国語がしゃべれるわけでもない…本当に取り柄とか才能とかないんだよ。」

自慢しているようには見えなかったから、これが深瀬の本心なのだろう。

深瀬のとりあえずの勉強で、僕は何度負けたことか。

天才…って彼女みたいな人のことをいうんだろう。

深瀬がこの先何かに熱中したら、すごいことになるんじゃないかと思った。

ふいに山上先生が遠くに目をやった。

「どうした氷上。真っ赤な顔して!のぼせたか?告白でもされたか?」

僕はその瞬間、深瀬の顔が凍りついたのを見逃さなかった。

「違うよ!」

と少し怒ったような困ったような氷上の様子は、誰がみても普通ではなかった。
いつもは先生に絡んでくる氷上が、足早に去っていった。

告白されたんだろう…その場にいる誰もが思った。
山上先生は

「青春はいいなぁ。」

なんて笑っているが、
相槌をうっている深瀬は

心ここにあらず。

氷上のあの様子だと、誰かの告白を受け入れるとは思えない。

でも、このままだと氷上と深瀬はお互いが好きなことに気付かないどころか、どんどん離れて行くだろう。

僕にとっては好ましいことだが…

何とも言えない気分で部屋に戻った。
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