豊中まわり
息子の本気に驚いたのは、林間学校。

サッカークラブが同じの篤人のママから話された内容が、衝撃だった。

「冴子さーん。
涼君同じクラスの深瀬さん好きなんでしょ?」

「そうなのよ。見てる方が恥ずかしいわ」

友達にもバレてるよ…涼。

「林間恒例の肝試しのペアあるじゃない?
篤人が深瀬さんとペアのくじ引いたらしいんだけど、涼君に頼まれて交換したらしいよ。」

「えっ!ごめん!まさかそんなことまで…」

不正まで働いても、ペアになりたかった本気度にびっくりした。

そこまで好きになれるのも、初恋ならでは。

うっきうっきで林間学校に旅立った涼は、更に上機嫌で帰ってきた。

何があったかは、聞くまでもない。
不正を働いてまで手に入れた 深瀬と手をつないで肝だめしが、よほど楽しかったのだろう。

後日写真が貼り出された。

本人は私に隠してるつもりらしが、深瀬さんとの写真を大量に購入していた。

中には、二人で手をつないで おばけに驚いている写真もあった。

息子がストーカーになりやしないかと、ちょっと不安になったほどだ。




息子の初恋相手と初めて話したのは、
もう寒くなったころだった。

学校から帰ってくるなり、すごい勢いで片付けだした。

「学校の友達来るから‼」

と言っていたが、いつもの男友達の時は片付けなんてしない。

それなのに今日は、私にリビングまで片付けるように言ってくる。

友達の中に深瀬さんがいることは明らか。

焦っている息子が面白すぎる。

しばらくすると、チャイムが鳴って、女子が3人入ってきた。

最初の二人は挨拶もそこそこに、
〝氷上の家〟の方が気になるらしかった。

好奇心いっぱいで、バタバタと階段を上がっていく。

最後に入ってきたのは、やっぱり深瀬さんだった。

丁寧に挨拶して 靴を揃えて入ってきた。

涼は、もう部屋を片付けたんだろか。

大量の林間の写真が見つかったら、
ドン引きされるぞー。

課題をするって言ってたけど、
男子も合流して盛り上がっている。

しばらくわーわー言っていたが、
一瞬シーンとなって、涼がバタバタと降りてきた。

「母さん。タオル持ってきて‼ジュースこぼれた!」

慌ててタオルを持っていくと、
深瀬さんの白いスカートにたっぷりオレンジジュースが染み込んでいる。

誰かが こぼしたらしく気まずい雰囲気が流れていた。

タオルで拭いたくらいでは シミになってしまうので、洗濯しかない。

「これは、洗うしかないね。
ちょっと着替えてくれる?
涼のジーンズしかないけど。ごめんね。」

「いえいえ。大丈夫です。
洗濯なんて…ご迷惑ですし…」

「せっかくかわいいスカート、シミになったら大変よ」

と押しきって洗濯機を回した。

うちの遅い乾燥機のおかげで、二人きりの時間も作れた。

ナイスアシスト私。

「涼!送って行きなさい。暗いから。」

更にアシスト。

「えー。分かったよ。」

何をテレてるんだか。

「本当にご迷惑かけてすいませんでした」

と申し訳なさそうに謝るので、

「いいのいいの。絶対また遊びに来てね。結莉ちゃん。」

と二人を見送った。

なんだかぎこちない距離で歩く二人。

親バカかもしれないが、けっこう脈ありだと思う。
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