豊中まわり

正しい問題の解き方

母さんの策略にハマった。

週に1度、親公認で家で会える

と思っていたのに…

騙された。

「涼!私も結莉ちゃんと話したいから、リビングで勉強しなさい。」

なんてこと言うんだ。

それじゃあ、ご褒美のキスがもらえないじゃないか!

「えー。集中できないからヤダ。」

抵抗してみたが、敵うはずもなく、

「リビング学習の方が 集中できるって 影山先生も言ってたわよ。TVで。」

なんか行動を見透かされてる気がする。

深瀬は、ホッとした様子で、むしろ前向き。

キスしたいのも、触れたいのも、ヤマしいことをしたいのは俺ばっかりだ。

結局、ブツブツ言ってはみたが、母さんに勝てる訳もなく、リビングで勉強することになった。

俺の弟まで来て、深瀬に算数を教えてもらい始めた。

「母さん!なんで翔(しょう)まで来んだよ。」

「6年なってから算数わからないらしくて、塾にいれようか迷ってたの。
そしたら結莉ちゃん、一緒に教えてくれるっていうから。
頼んじゃった!」

「えぇぇ。俺知らなかったんだけど。」

「この前、結莉ちゃんの連絡先聞いといたの。」

マジで‼ なんだよ。その行動力。

ふて腐れて勉強していると、深瀬が少し小さい声で

「ごめんね。勝手に引き受けちゃって。」

と囁いた。

深瀬は全然悪くない。

勝手に決めた母さんと、不純な気持ちでいっぱいの俺が悪い。

むしろこれで良かったんだ。

家族のいるリビングなら、流石の俺でも理性を失ったりしない。

勉強へのヤル気は半減したけど、これで良かったんだ。

あーぁ。なんなら弟の翔の方がヤル気だよ…

深瀬に質問とかして…

ん?何か顔赤くないか?あいつ。

兄弟で取り合いとか、マジで嫌だし。

そんなくだらないことばかり考えていると、

今日は自力で一問しか答えられなかった。

深瀬が帰る間際、前に忘れ物をしたと言ったので、

二人で2階の俺の部屋に向かった。

「何忘れてた?気付かなかったけど…」

そう言って、部屋の中に入ると、

深瀬が部屋の扉を閉めて俺の手をつかんだ。

次の瞬間、

深瀬の柔らかい唇が俺の唇に触れた。

一瞬わけがわからなかったが、

唇を離した深瀬が

「忘れ物。今日は一問解けてたから。」

と少し赤い顔で言うから、

もう うれしくて、うれしくて、うれしくて。

そのまま深瀬を抱きしめた。

いい香りと、ぬくもりに包まれた。

「忘れ物あったーー?」

1階から母さんのデカい声。

二人で見つめ合って、ふふっと笑った。

「あったよー。」

と言って1階に降りた。

今日は深瀬からキスしてくれた記念日だ。



深瀬先生の家庭教師のおかげで、

期末の成績がだいぶ上がった。

ご褒美もたくさんもらった。

弟の翔まで成績表が良くなって、

母さんは、大喜びだった。




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