豊中まわり
蝉の声がうるさい。
照りつける太陽の中予備校に歩いた。
時間ギリギリに受付を済ませて教室に向かった。
効きすぎな冷房の風が、汗ばんだシャツを通り抜ける。
教室のドアを開けると、もう10人くらい来ていた。
国立理系コース
やっぱり男ばかっりだ。
前の方に何人か人が集まっている。
座席表を見ようと、前方のホワイトボードに向かった。
二人の男が、座っている子に話しかけている。
話しかけられている子は 女の子のようだが、よく見えなかった。
座席表を見て、振り返り、うつ向いている女の子が目に入った。
息が止まりそうだった。
瞬間にわかった。
薄茶の細い髪に、白い肌。
深瀬だ。
僕の想像より綺麗になっている。
でも、絶対深瀬だ。
悪ノリな男が深瀬を困らせている。
「ねぇねぇ、下の名前も教えてよ。高校はどこー?」
深瀬はうつむき、困ったような表情が見えた。
とっさに足が深瀬のもとに向かった。
会いたくないわけがない。
会いたくてたまらなかった。
一人の男の肩を押し退け、彼女の前に立った。
「深瀬、久しぶり。」
見上げた深瀬が目を丸くして、僕を見た。
やっぱりもう覚えていないかな?
「なんだよ。横から入ってくんなよ。」
悪ノリ男が僕をにらみつけた時、
「周防君?周防君‼久しぶり‼」
教室中に響きわたるデカい声に、僕もびっくりした。
覚えてもらってたことがうれしくてうれしくて
「声が大きいよ深瀬。」
と言って笑った。
深瀬は口を抑えて、しまった…という顔をしていた。
悪ノリ男達は、納得いかないような表情を浮かべながら 席に戻って行った。
「周防君、こっちに帰ってるの?」
今度は小さな声で、あの澄んだ瞳をキラキラさせて深瀬が話しかける。
可愛すぎで目眩がする。
「夏休みだけね。深瀬はなんで理系?」
「高校からの物理が、あんまりよくわからなくて…悔しいから理系コースにしてみた。
まだ1年だしね。」
深瀬らしい。変わってない。
先生が入ってきて、席に着くよううながされた。
深瀬の隣は、あの悪ノリ男の一人だ。
「すいません。僕目が悪いんで、一番前の方と変わってもらえませんか?」
言いながら席を立って、半ば強引に深瀬の隣の男をどかせた。
深瀬がチラッとこちらをみて微笑んだ。
なんだか小6の夏休みにタイムスリップしたような感覚だった。
深瀬を悪者から守るナイトは僕だ。
授業中、深瀬から2つ折の小さい紙が、そっと机の上に置かれた。
久しぶりにもらう深瀬からの小さな手紙。
ドキドキしながら紙を開けると、
ありがとう。助かりました。
と綺麗な字で書かれていた。
深瀬を見ると、僕の方をチラッとみて笑顔を見せた。
隣の深瀬が気になって気になって
初日の授業はほとんど聞いていない。
僕はそっとその小さな手紙をペンケースにしまった。
授業が終ると、深瀬の方から話しかけてくれた。
学校はどう?
どんな授業なの?
親と離れて寂しくなかった?
どのくらい夏休みはこっちにいるの?
僕に興味を持ってくれることがうれしい。
質問に答えながら、幸せでいっぱいだった。
僕だって、深瀬に聞きたいことは山ほどある。
中学は誰に告白されて誰と付き合った?
今は誰と付き合ってるの?
好きな人はいるの?
どんな男が深瀬に愛されてるの?
でも、怖くてきけない。
唯一聞けたのは
「高校はどこに行ったの?」
深瀬が笑いながら言った。
「家から一番近い共学。」
「だと思った。近いから。でしょ?」
「当たり。よく覚えてたね。」
忘れるはずがない。深瀬との会話を。
その日はそのまま家の方まで歩きながら二人で帰った。
深瀬の苦手らしい物理の話や、
僕の高校の面白い先生の話をしながら。
母さんが車で迎えにきた帰り道は、あんなに長く感じたのに、深瀬と歩く真夏の帰り道は、驚くほど短く感じた。
これがアインシュタインの相対性かと実感した。
照りつける太陽の中予備校に歩いた。
時間ギリギリに受付を済ませて教室に向かった。
効きすぎな冷房の風が、汗ばんだシャツを通り抜ける。
教室のドアを開けると、もう10人くらい来ていた。
国立理系コース
やっぱり男ばかっりだ。
前の方に何人か人が集まっている。
座席表を見ようと、前方のホワイトボードに向かった。
二人の男が、座っている子に話しかけている。
話しかけられている子は 女の子のようだが、よく見えなかった。
座席表を見て、振り返り、うつ向いている女の子が目に入った。
息が止まりそうだった。
瞬間にわかった。
薄茶の細い髪に、白い肌。
深瀬だ。
僕の想像より綺麗になっている。
でも、絶対深瀬だ。
悪ノリな男が深瀬を困らせている。
「ねぇねぇ、下の名前も教えてよ。高校はどこー?」
深瀬はうつむき、困ったような表情が見えた。
とっさに足が深瀬のもとに向かった。
会いたくないわけがない。
会いたくてたまらなかった。
一人の男の肩を押し退け、彼女の前に立った。
「深瀬、久しぶり。」
見上げた深瀬が目を丸くして、僕を見た。
やっぱりもう覚えていないかな?
「なんだよ。横から入ってくんなよ。」
悪ノリ男が僕をにらみつけた時、
「周防君?周防君‼久しぶり‼」
教室中に響きわたるデカい声に、僕もびっくりした。
覚えてもらってたことがうれしくてうれしくて
「声が大きいよ深瀬。」
と言って笑った。
深瀬は口を抑えて、しまった…という顔をしていた。
悪ノリ男達は、納得いかないような表情を浮かべながら 席に戻って行った。
「周防君、こっちに帰ってるの?」
今度は小さな声で、あの澄んだ瞳をキラキラさせて深瀬が話しかける。
可愛すぎで目眩がする。
「夏休みだけね。深瀬はなんで理系?」
「高校からの物理が、あんまりよくわからなくて…悔しいから理系コースにしてみた。
まだ1年だしね。」
深瀬らしい。変わってない。
先生が入ってきて、席に着くよううながされた。
深瀬の隣は、あの悪ノリ男の一人だ。
「すいません。僕目が悪いんで、一番前の方と変わってもらえませんか?」
言いながら席を立って、半ば強引に深瀬の隣の男をどかせた。
深瀬がチラッとこちらをみて微笑んだ。
なんだか小6の夏休みにタイムスリップしたような感覚だった。
深瀬を悪者から守るナイトは僕だ。
授業中、深瀬から2つ折の小さい紙が、そっと机の上に置かれた。
久しぶりにもらう深瀬からの小さな手紙。
ドキドキしながら紙を開けると、
ありがとう。助かりました。
と綺麗な字で書かれていた。
深瀬を見ると、僕の方をチラッとみて笑顔を見せた。
隣の深瀬が気になって気になって
初日の授業はほとんど聞いていない。
僕はそっとその小さな手紙をペンケースにしまった。
授業が終ると、深瀬の方から話しかけてくれた。
学校はどう?
どんな授業なの?
親と離れて寂しくなかった?
どのくらい夏休みはこっちにいるの?
僕に興味を持ってくれることがうれしい。
質問に答えながら、幸せでいっぱいだった。
僕だって、深瀬に聞きたいことは山ほどある。
中学は誰に告白されて誰と付き合った?
今は誰と付き合ってるの?
好きな人はいるの?
どんな男が深瀬に愛されてるの?
でも、怖くてきけない。
唯一聞けたのは
「高校はどこに行ったの?」
深瀬が笑いながら言った。
「家から一番近い共学。」
「だと思った。近いから。でしょ?」
「当たり。よく覚えてたね。」
忘れるはずがない。深瀬との会話を。
その日はそのまま家の方まで歩きながら二人で帰った。
深瀬の苦手らしい物理の話や、
僕の高校の面白い先生の話をしながら。
母さんが車で迎えにきた帰り道は、あんなに長く感じたのに、深瀬と歩く真夏の帰り道は、驚くほど短く感じた。
これがアインシュタインの相対性かと実感した。