豊中まわり
文化祭
急に寒くなって秋を感じ始めた晴れた日。
今日は涼の学校の文化祭に呼ばれている。
チケットを無くさないよう、カバンに入れた。
招待がないと入れないらしく、チケットには涼の名前が書いてある。
涼が一緒に回ってくれるっていうから、友達は誘っていない。
ひとりで行くのが少し不安。
涼は目立つから、一緒にいたら注目を浴びそう…
あんな子が彼女?って思われないように、髪型とか頑張った。いつもはノーメークだけど、マスカラとグロスだけしてみた。
出掛けにママもカワイイって言ってくれたし、ちょっと自信になった。
バスに乗って涼の学校の前に着いた。
私立の文化祭だけあって、人が多い。
たくさんの人の熱気を感じる。
着いたら連絡してって言われてたから、メールして、校門をドキドキしながらくぐった。
受付に並んでチケットを渡したら、受付の女の子に二度見されてしまった。
招待者の名前に驚いたんだろう。
やっぱり涼は人気者なんだな。
このチケットを欲しい子がたくさんいるんだろうな…と少し不安になっていると、
「結莉!」
と明るい声がした。
涼が走ってきた。
制服姿がキラキラしている。
涼の派手な登場で、一気に注目を浴びてしまった。
「結莉、今日大人っぽくない?」
「ちょっとだけマスカラしたの。変かな?」
「すごいカワイイ…というか綺麗…。変な先輩とかいるから気をつけてね。守るけど。」
涼が誉めてくれたのがうれしくて、心がフワフワした。
回りの視線は気になったけど、涼が隣にいるし今日は楽しもう!と思った。
涼は、行くところ行くところで声をかけられ、その度に私を紹介してくれた。
「氷上、小5から好きってホント?」
「氷上が超ハマってる彼女ってどの子?」
「あの氷上を落とした女の子ってどれ?」
もう、どうしていいかわからないほど、色んな人色々聞かれた。
その度、涼は
「小5からっていうな。小5からだけど!」
「超ハマってるっていうな。超ハマってるけど!」
「ようやく彼女になってくれたんだから、余計なこと言うなよー。」
色々な言葉で、私を包んだ。
自分を肯定されることがこんなにうれしいことだと思わなかった。
涼が、本当に優しくて、私が困らないように、私が嫌な思いをしないように気遣ってくれているのがわかった。
涼の親友らしい、コウと呼ばれる男の子にも紹介された。
ベンチでひとり焼きそばを食べていた彼は、
涼と同じく、日に焼けて、引き締まった体つきから、運動部であることは容易に想像できた。
「コウ!連れてきたよ。ゆうり。」
「…はじめまして。深瀬結莉です。」
遠慮がちに、あいさつすると、
「あぁ。なるほど…」
ゆっくりとした口調の、コウと目があった。
涼とは違い、どちらかというと、あまり話すのが好きではないような印象を受けた。
「なるほどってなんだよ。ごめんな結莉。高橋 航 サッカー部で親友。こいつだけは覚えといて。」
高橋君は、焼きそばをベンチにおいて、またゆっくりと話始めた。
「あぁ。ごめん。高橋です。女子としゃべるの苦手で‥‥氷上をあれだけハマらせる女子ってどんな子だろうって思ってたから。」
「恥ずかしいこというなよ。航」
「ごめんなさい。期待外れだったよね。」
なんだか申し訳なくて、顔が赤くなった。
「いや……」
高橋君が言葉につまった時、
「涼ーー。たこせん 買ってくれよー。」
と、向こうの屋台から涼が呼ばれた。
「結莉、ちょっとここ座って待ってて。買ってくる。すぐ戻るし。」
「えッ?」
私の答えも待たずに、涼は 走って行ってしまった。
高橋君が、ベンチの焼きそばをどけて、席を空けてくれたので、遠慮がちに座った。
いくら涼の親友といっても、私は今日あったばかりなのに、何を話せばいいんだろう……。
私も男子と話すのは、あまり得意ではないのに。
しかも、涼が勝手にハードルを上げておくから、いたたまれない。
悩んでいると、低く控えめな声が隣から聞こえた。
「涼、あんたの話ばっか。」
「え?」
「つきあってから、ひどい。毎日毎日。」
「変なこと言われてないといいけど……。」
「だから、変にあんたの情報だけ知ってて、微妙なかんじ。」
「えっ?何言われてるの?怖いなぁ。」
「水着が見たいって、叫んでたぞアイツ。グランドで。」
「えぇ???」
「プール行く予定だっただろ?友達と二人で。俺誘われてさ。まぁ結局部活で行けなかったんだけど。」
「あぁ!」
涼が、友達誘うって言ってた人、高橋君だったんだ。
「『俺以外に見せるもんか!台風こーーい!』って叫んでたぞ。練習中に。あいつ重症だな。」
「そうなの?そんな心配いらないのにね。」
そんな話信じられないけど、想像すると面白くて、笑った。
「確かに。」
「でしょ?」
「そうじゃなくて。確かにあんたなら心配かもな。天然?」
「え?」
「あの涼が、あれだけ必死になるのもわかるよ。」
「必死なのは、私の方だよ。涼は太陽みたいな人だから。」
「太陽……確かに。あいつも天然だしな。」
その時、向こうから、たこせんを手に持った涼が走ってきた。
「結莉!たこせん買ってきたよ。」
「おれのは?」
「自分で買ってこいよ。結莉、こいつになんか変なこといわれなかった?」
「とりあえず、おまえが水着見たいって叫んでたことは言っといた。」
「はーーーぁ?なんでそんなこと言うんだよ。変態に思われたらどうしてくれんだよ。」
「事実だし。涼、変態じゃん。画像事件もあるし。」
高橋君が、いじわるそうに涼を見た。
「画像事件?何それ?」
「関係ないから。結莉は気にしないで。航、おまえいい加減にしろよ。」
「こいつ、スマホの画像、サッカー部の先輩に勝手に見られてさ、」
「わーーーーーーわーーーーーわーーーーー。」
「何が写ってたと思う?」
涼が必死に妨害している。
たこせんが、今にも滑り落ちそう。
男の子同士って、仲がよくって面白い。
「何だろう?」
男の子だし、エッチな画像とかかな‥‥
「その画像にみんなドン引き。」
「結莉、聞かなくていいから。ちょっとむこう行ってて。」
「えー。私も聞きたいな。楽しそうだし。」
「楽しくないよ。航、マジで怒るぞ。」
涼が、高橋君の口をおさえようとした瞬間、
高橋君が、涼をすり抜け、大きな声で言った。
「小学生の写真。あと、盗撮。同じ女の子の。」
「ちがう!ちがうんだ結莉。」
涼が、めずらしく慌てている。
「それって……。」
「そうそう。全部あんた。」
涼を見ると、耳まで真っ赤になっている。
「盗撮じゃないから。学校で売ってるやつを、こっそり買っただけなんだけど、ごめん。」
「何であやまるの?ふつうにうれしいよ。私も持ってる写真、取り込もう。」
なんで涼が恥ずかしがっているのかよくわからない。
私の写真を見られて恥ずかしかったのかな。
もっとかわいい彼女だと思ったのかも。その先輩達も。
「やっぱ、涼がハマるだけあるわ。」
そう言って、高橋君は、涼からひとつ奪った たこせんを持って、どこかへ歩いて行った。
高橋君が座っていたところに、涼が肩を落として座った。
「アイツはなんでも知ってるから、嫌なんだ。」
「教えてもらえてうれしかったけど?」
「キモチ悪くない?」
「全然!もっとちゃんと撮ったの見られたら良かったね。」
「全部、‥‥カワイイヨ。」
たこせんがをほおばった涼から 小さな声が聞こえた。
「今日も一枚撮ってもいい?」
「もちろん!もう開き直って、待ち受けにするわ。俺。」
なんだか、私ばっかり素敵な思いをして申し訳ないくらいだ。
その後も涼は、優しさが あふれていた。
女の子達からの厳しめな目線がきたら、さっと視線がぶつからない所へ連れて行ってくれた。
ひとりにならないようにしてくれた。
大勢の涼の友達から、私の友達紹介して欲しいから連絡先教えてーって言われた時は、絶対無理って断ってくれた。
すごく大切に彼女扱いしてもらって、
色んな人に紹介してもらって、
大切にされてるんだ…って改めて思った。
すごく胸があたたかくなった。
涼のお母さんの焼そばまで食べれて、幸せだった。
アイツに出会わなければ…。
今日は涼の学校の文化祭に呼ばれている。
チケットを無くさないよう、カバンに入れた。
招待がないと入れないらしく、チケットには涼の名前が書いてある。
涼が一緒に回ってくれるっていうから、友達は誘っていない。
ひとりで行くのが少し不安。
涼は目立つから、一緒にいたら注目を浴びそう…
あんな子が彼女?って思われないように、髪型とか頑張った。いつもはノーメークだけど、マスカラとグロスだけしてみた。
出掛けにママもカワイイって言ってくれたし、ちょっと自信になった。
バスに乗って涼の学校の前に着いた。
私立の文化祭だけあって、人が多い。
たくさんの人の熱気を感じる。
着いたら連絡してって言われてたから、メールして、校門をドキドキしながらくぐった。
受付に並んでチケットを渡したら、受付の女の子に二度見されてしまった。
招待者の名前に驚いたんだろう。
やっぱり涼は人気者なんだな。
このチケットを欲しい子がたくさんいるんだろうな…と少し不安になっていると、
「結莉!」
と明るい声がした。
涼が走ってきた。
制服姿がキラキラしている。
涼の派手な登場で、一気に注目を浴びてしまった。
「結莉、今日大人っぽくない?」
「ちょっとだけマスカラしたの。変かな?」
「すごいカワイイ…というか綺麗…。変な先輩とかいるから気をつけてね。守るけど。」
涼が誉めてくれたのがうれしくて、心がフワフワした。
回りの視線は気になったけど、涼が隣にいるし今日は楽しもう!と思った。
涼は、行くところ行くところで声をかけられ、その度に私を紹介してくれた。
「氷上、小5から好きってホント?」
「氷上が超ハマってる彼女ってどの子?」
「あの氷上を落とした女の子ってどれ?」
もう、どうしていいかわからないほど、色んな人色々聞かれた。
その度、涼は
「小5からっていうな。小5からだけど!」
「超ハマってるっていうな。超ハマってるけど!」
「ようやく彼女になってくれたんだから、余計なこと言うなよー。」
色々な言葉で、私を包んだ。
自分を肯定されることがこんなにうれしいことだと思わなかった。
涼が、本当に優しくて、私が困らないように、私が嫌な思いをしないように気遣ってくれているのがわかった。
涼の親友らしい、コウと呼ばれる男の子にも紹介された。
ベンチでひとり焼きそばを食べていた彼は、
涼と同じく、日に焼けて、引き締まった体つきから、運動部であることは容易に想像できた。
「コウ!連れてきたよ。ゆうり。」
「…はじめまして。深瀬結莉です。」
遠慮がちに、あいさつすると、
「あぁ。なるほど…」
ゆっくりとした口調の、コウと目があった。
涼とは違い、どちらかというと、あまり話すのが好きではないような印象を受けた。
「なるほどってなんだよ。ごめんな結莉。高橋 航 サッカー部で親友。こいつだけは覚えといて。」
高橋君は、焼きそばをベンチにおいて、またゆっくりと話始めた。
「あぁ。ごめん。高橋です。女子としゃべるの苦手で‥‥氷上をあれだけハマらせる女子ってどんな子だろうって思ってたから。」
「恥ずかしいこというなよ。航」
「ごめんなさい。期待外れだったよね。」
なんだか申し訳なくて、顔が赤くなった。
「いや……」
高橋君が言葉につまった時、
「涼ーー。たこせん 買ってくれよー。」
と、向こうの屋台から涼が呼ばれた。
「結莉、ちょっとここ座って待ってて。買ってくる。すぐ戻るし。」
「えッ?」
私の答えも待たずに、涼は 走って行ってしまった。
高橋君が、ベンチの焼きそばをどけて、席を空けてくれたので、遠慮がちに座った。
いくら涼の親友といっても、私は今日あったばかりなのに、何を話せばいいんだろう……。
私も男子と話すのは、あまり得意ではないのに。
しかも、涼が勝手にハードルを上げておくから、いたたまれない。
悩んでいると、低く控えめな声が隣から聞こえた。
「涼、あんたの話ばっか。」
「え?」
「つきあってから、ひどい。毎日毎日。」
「変なこと言われてないといいけど……。」
「だから、変にあんたの情報だけ知ってて、微妙なかんじ。」
「えっ?何言われてるの?怖いなぁ。」
「水着が見たいって、叫んでたぞアイツ。グランドで。」
「えぇ???」
「プール行く予定だっただろ?友達と二人で。俺誘われてさ。まぁ結局部活で行けなかったんだけど。」
「あぁ!」
涼が、友達誘うって言ってた人、高橋君だったんだ。
「『俺以外に見せるもんか!台風こーーい!』って叫んでたぞ。練習中に。あいつ重症だな。」
「そうなの?そんな心配いらないのにね。」
そんな話信じられないけど、想像すると面白くて、笑った。
「確かに。」
「でしょ?」
「そうじゃなくて。確かにあんたなら心配かもな。天然?」
「え?」
「あの涼が、あれだけ必死になるのもわかるよ。」
「必死なのは、私の方だよ。涼は太陽みたいな人だから。」
「太陽……確かに。あいつも天然だしな。」
その時、向こうから、たこせんを手に持った涼が走ってきた。
「結莉!たこせん買ってきたよ。」
「おれのは?」
「自分で買ってこいよ。結莉、こいつになんか変なこといわれなかった?」
「とりあえず、おまえが水着見たいって叫んでたことは言っといた。」
「はーーーぁ?なんでそんなこと言うんだよ。変態に思われたらどうしてくれんだよ。」
「事実だし。涼、変態じゃん。画像事件もあるし。」
高橋君が、いじわるそうに涼を見た。
「画像事件?何それ?」
「関係ないから。結莉は気にしないで。航、おまえいい加減にしろよ。」
「こいつ、スマホの画像、サッカー部の先輩に勝手に見られてさ、」
「わーーーーーーわーーーーーわーーーーー。」
「何が写ってたと思う?」
涼が必死に妨害している。
たこせんが、今にも滑り落ちそう。
男の子同士って、仲がよくって面白い。
「何だろう?」
男の子だし、エッチな画像とかかな‥‥
「その画像にみんなドン引き。」
「結莉、聞かなくていいから。ちょっとむこう行ってて。」
「えー。私も聞きたいな。楽しそうだし。」
「楽しくないよ。航、マジで怒るぞ。」
涼が、高橋君の口をおさえようとした瞬間、
高橋君が、涼をすり抜け、大きな声で言った。
「小学生の写真。あと、盗撮。同じ女の子の。」
「ちがう!ちがうんだ結莉。」
涼が、めずらしく慌てている。
「それって……。」
「そうそう。全部あんた。」
涼を見ると、耳まで真っ赤になっている。
「盗撮じゃないから。学校で売ってるやつを、こっそり買っただけなんだけど、ごめん。」
「何であやまるの?ふつうにうれしいよ。私も持ってる写真、取り込もう。」
なんで涼が恥ずかしがっているのかよくわからない。
私の写真を見られて恥ずかしかったのかな。
もっとかわいい彼女だと思ったのかも。その先輩達も。
「やっぱ、涼がハマるだけあるわ。」
そう言って、高橋君は、涼からひとつ奪った たこせんを持って、どこかへ歩いて行った。
高橋君が座っていたところに、涼が肩を落として座った。
「アイツはなんでも知ってるから、嫌なんだ。」
「教えてもらえてうれしかったけど?」
「キモチ悪くない?」
「全然!もっとちゃんと撮ったの見られたら良かったね。」
「全部、‥‥カワイイヨ。」
たこせんがをほおばった涼から 小さな声が聞こえた。
「今日も一枚撮ってもいい?」
「もちろん!もう開き直って、待ち受けにするわ。俺。」
なんだか、私ばっかり素敵な思いをして申し訳ないくらいだ。
その後も涼は、優しさが あふれていた。
女の子達からの厳しめな目線がきたら、さっと視線がぶつからない所へ連れて行ってくれた。
ひとりにならないようにしてくれた。
大勢の涼の友達から、私の友達紹介して欲しいから連絡先教えてーって言われた時は、絶対無理って断ってくれた。
すごく大切に彼女扱いしてもらって、
色んな人に紹介してもらって、
大切にされてるんだ…って改めて思った。
すごく胸があたたかくなった。
涼のお母さんの焼そばまで食べれて、幸せだった。
アイツに出会わなければ…。