豊中まわり
椅子から立ち上がった結莉は、

そのまま優しく俺の頭を抱きしめた。

予想外の行動に、プチパニックになった。

ちょうど顔のところに結莉の胸があたって、その柔らかさに思考停止した。

いいのか結莉!胸があたってるぞ!
気づいてないのか?
わざとか?
わざとってどういうこと?

そして、俺の髪を指で触りながら、

耳元で

「涼の濡れた髪の毛、大好き」

と囁かれた。

ちょっと待って。これなんのご褒美?
すごくゾクゾクする。

ヤバイヤバイ。こんな結莉知らない。

大好きな結莉にこんなことされたら、
おかしくなってしまう。

これ以上好きになったら、俺どうなるんだ。


そして耳に結莉の唇が触れた。

結莉の呼吸が、俺をダメにする。

耳に全ての意識が集中して、
初めての感覚に体が熱くなる。

結莉は、ゆっくりと耳を舐め、
俺を骨抜きにして、唇を離した。

「結莉…」

力が入らず、きっと間抜けな顔をしているであろう俺は、言葉も出てこない。

「すごく楽しいかも…はまりそう…」

何を言い出すんだ結莉!
ちょっと悪い顔をして、俺の真っ赤な顔を覗き込む。

「私も涼のこと、色々知りたい。
触ったりしたい。自分の意思で触るの 楽しい。」

あぁぁ。ただでさえ俺ばっかり好きなのに、こんな一面見せられたら、どんどんハマってるしまう。

結莉は俺の指に自分の指をからめて、

「お互い、ゆっくり、ちょっとずつでもいい?それなら怖くない。」

もう俺に選択権などない。

どうやったって、俺は結莉だけなんだ。

ただでさえ結莉しか見えないのに、
知らない一面を知って、余計にハマったのは俺じゃないか。

「もちろん。」

余裕のない俺を楽しむかのように、結莉は、

「じゃあ、勉強しよっか。」

と小悪魔のように言った。

この状態で勉強などできるわけがない。

だいたい、ちょっとずつって、どうするんだ。

せっかく、俺は触らずの決意をしたばかりだいうのに。

俺は触れないけど、結莉は好きにしてくるってこと?

喜ばしいような、そうでないような。

ぜんぜん考えがまとまらない俺に、
どんどん物理の教科書を進めようとする結莉。


いつの時代だって惚れた方が負けだ。


ぜんぜん考えがまとまらないまま、
勉強も進まないまま
母さんのデカい声に呼ばれた。

晩御飯を食べている間も、俺は結莉が気になって仕方がない。

さっき結莉に触れられた耳が、まだ熱い。

結莉の唇が気になって、結莉の食べるところばかり見ていた。

食べ方が美しい。それがまたエロい。

それを母さんに気付かれて、

「涼!結莉ちゃんばっかり見てないで、さっさと食べなさい。はぁ。まったくうちの子は…」

恥ずかしすぎる…
結莉もクスクス笑っている。

散々な晩御飯を終え、結莉を送っていくため外に出た。

母さんに挨拶した結莉は、なんだか上機嫌だった。

家から少し離れたところで、結莉が俺の手に触れ、指をからめた。

もう今日はドキドキさせられっぱなしだ。

更に結莉は、自分の家の少し手前まで来ると、物陰に俺を引っ張り、

「今日は私からしたいんだけど…」

と、爆弾発言。ドギマギする俺に

「ちょっとかがんで。」

というと、少し背伸びして、
俺の首筋に唇をあてた。

もう何がなんだかわからない。

ゾクゾクとうれしさと恥ずかしさが混じって、また赤面してしまった。

俺に理性がなかったら、このまま結莉を襲ってしまうところだ。

「ここも触れてみたかったの。」

なんてカワイイこと言うんだ。

俺が結莉を襲わないか試しているのか?

「ずるいよ…結莉…」

俺ばっかり夢中にさせて…

このまま帰したくないくらい
結莉がいとおしい。

そんな余韻に浸っている俺に、結莉から嫌な情報を聞かされた。

「そういえばね、関係ないと思うんだけど、
今度、伊織くんのママがうちに遊びにくるんだって。
ママだよ。
家でランチするって言ってたから、
私は会うことないと思うけど、
一応報告しといた方がいいかな と思って。」

嫌な予感がする。

俺の幸せの余韻はかき消された。






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