晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
俺が登坂さんの走りを初めて見たのは、】




そこまで字を追った時、視界の端に人影が現れた。


「……っ!?」


びっくりして反射的に顔を上げると、制服姿の康介がズボンのポケットに両手を突っ込んで私を真っ直ぐに見つめていた。

慌てて手紙を体の後ろに隠し、驚きに被せるように表情を作る。


「ちょっと。来たなら声かけてよ」


びっくりして心臓飛び出るかと思ったじゃん、とおどける私だけど、康介は反応を示さない。

私を見据え、眉間に深い皺を寄せている。


怒ってんのか? 私、怒られるようなこと何かしたかなぁ?

と考えを巡らせてみても、思い当たる節は見当たらない。

この前勝手に食べたお菓子は後日ちゃんと買って返したし、散らかした雑誌だって片づけた。

なのになんで、こんな渋い顔してんだ?


結局、康介の眉間の皺は別れ際まで消えることはなかった。




お風呂に入ってから、康介の目を盗んで鞄にしまった手紙を手に取った。

ベッドに体を預けて、再び便箋を取り出す。
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