晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
ゴールラインを超えた瞬間に割れるような歓声が私の鼓膜を震わせ、弾かれるように顔を上げると──世界が煌めいて見えたんだ。


雲一つない真っ青な空と、赤いトラックと、太陽の光と。目に飛び込むもの全てが、眩しいくらいに鮮やかに映し出されて。

間違いなく言える。あの日あの時見たあの景色は、光景は、今まで目にした何よりも美しい眺めだった。




私の人生を変えた瞬間のあの景色をもう一度見たくて、今までずっと頑張ってきた。

茹だるような暑い夏の日も手足が凍ってしまいそうなほど寒い冬の日も、グランドに繰り出した。

人一倍努力を重ねてきたつもりだった。それなのに。


『努力が足りないんじゃないか』


そんなふうに言うなら教えてよ、あなた達に認められるのに必要な努力は、あとどれくらいで足りる?

どうしたら“このまま”から脱却できるの? タイムが縮まるの?


もうわかんないよ。

私は一体、何のために走ってるんだろう──。




「ちづ」


朝、いつも通り机に伏せて目を閉じていた私の頭上から、もはや気配だけで誰だか悟ることのできそうな人物の声が聞こえた。
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