晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
顔を上げるのも億劫で、自分の腕に埋もれたまま応答する。昨日の今日で笑顔を作れるほど、気丈ではない。

何があったのかなんて知る由もない康介は私がくだらないことでヘソを曲げていると思ったのだろう、呆れたような乾いた笑い声を上げた。

それから、ギィっと椅子を引いた音がしたから、多分空いていた前の席に座ったんだと思う。


「…………」


康介は何を話すでもなく、ただ気配だけを感じさせてそこにいた。

それは心地いいような、居た堪れないような、不思議な感覚だった。


しばらくして、康介が「なぁ」と声をかけてきた。

狸寝入りをしようかとも思ったけど、長年の付き合いである康介に通用するはずがないことはわかっていたので、少し間を置いて短く返す。


「驚かねーで聞いてほしいんだけどさ」

「…………」

「親父、入院したんだ」


驚くなという前置きもあったし、気分が気分なのでちょっとやそっとのことでは驚かないつもりだった。

だけど、康介の口から告げられた出来事は、“ちょっとやそっと”の枠を遥かに超えていた。


「え……?」


顔を上げて康介を食い入るように見つめると、彼は口角を持ち上げてから呆れたような溜め息を吐いた。
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