晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
「えっ……」


「なーんてな。学校で名前まで秘匿の情報にされちゃ、みんな名無しだぞきっと」



やはり教室を回っていかなければならないのか。そんな不安を、サトタツの笑顔が追い抜く。


な……なんだよもうー!


前身から空気が抜けていく感じがして、私は一つ息を吐いた。

そんな私の様子を見てくくっと喉を鳴らしたサトタツだけど、すぐに眉間に皺を寄せる。



「何をそんなに必死になってるのかは知らねぇけど、俺の知る限り、1年生に“リョウタ”というやつはいない」


え……?

最後の小さな希望が、打ち砕かれていく音がする。


「でも……それって、サトタツの記憶上の話だよね? もしかしたら、いるかもしれないよね?」

「1年を持つことになって、新入生の名前は全部頭に叩き込んだ。一つも漏れなんてない自負はあるぞ」


そん、な……。

最後の希望が、粉々になって消えた。

元々可能性は薄いと思っていたものの、大きな絶望感が私を襲う。


「……わかった、ありがと」

「おう。なんだかわかんねーけど、頑張れよ」


サトタツに礼を残して、職員室を出る。

スライド式の扉の前で、私は佇んでしまった。
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