晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
志村先生は小首を傾げつつ、私のところまで歩み寄ってきてくれた。

見れば見るほど、将棋棋士。なんか、ふんわりお線香みたいな匂いがする。


この人がリョータ……?

いやいや、そんなはずは。

あぁでも……せっかく訪ねたんだし、聞いてみよう。可能性は限りなくゼロに等しいと思うけど……。


「あの。私、3年7組の登坂千鶴です。私のこと……ご存知ですか」

「……え?」


ですよねー! 絶対知らないですよね、初対面だもん!

答えはほぼ明白だけど、ここまで来たら引くに引けない。


「私と、何かの方法で連絡を取ったことがありますか」


我ながら、怪しい文言だ。こんなふうに尋ねられたら、私だって困惑する。

が、先生は少し首を傾げてから色の薄い唇を開いた。


「連絡って……文通、ですか?」


先生の口から出てきたワードに、どきりとする。
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