晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
まさか……!

予想外の展開に言葉を失っていると、先生は柔らかい顔を更に和らげた。


「いやぁ、懐かしい。昔、妻とよく文通をしたんですよ。今みたいにメールなんてない時代ですからね」

「え……」

「妻の名前もチヅルって言うんです。彼女の場合は、智に鶴と書きますがね。懐かしいなぁ。妻は昔隣町に住んでましてね……」


過去の甘酸っぱい思い出を俎上に乗せて、その口が止まる気配はない。

う、嘘でしょ!? これも、予想外の展開だ……!




講師室を出る頃、私のHPは皆無に等しかった。

部活が始まる時間なのでと伝えて切り上げなければ、まだ話は続いていたに違いない。

他にも“リョウタ”という先生がいる可能性も拭い切れなかったけど、時間に余裕もないし、次に職員室に向かう気力も残っていなかった。


げっそりした私は、とぼとぼと廊下を歩く。みんな帰路についた後なのか、冷たいコンクリート上に生徒の姿はほとんどない。

昇降口の前を通って部室棟に行こう。

どうせなら靴箱も見ていこうかなーなんて思いつつ、昇降口の一角に差し掛かる。
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