晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
その様子を後ろから手持ち無沙汰に眺めていると、くるりと振り返った彼女に猫目で睨まれた。


「こっち」


必要最低限の文言だけを放って、彼女が再び歩き始める。

慌てて後を追おうとして、咄嗟に目線を投げた用紙からは【柿原彩音】という彼女のものらしき名前だけが読み取れた。


ナースステーションの近く、ドア付近にコンピューターなどが置かれた病室に足を踏み入れる。

医療ドラマなんかでよく見る集中治療室みたいなところではなさそうだけど、私のイメージする一般的な病室とも少し違うような気がした。


薄いピンク色のカーテンで仕切られた空間にベッドが並べられていて、頭上には心電図が取り付けられている人もいる。

さっきまで学校にいたのが嘘のように、静かで緊張感溢れる空間だった。

こんなところ、部外者の私が入っていいところじゃないよ絶対……。

気後れする私を連れていた彼女……彩音ちゃんが、ぴたりと足を止めた。


「来たよ、──崚ちゃん」
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