晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
私への話し方とは打って変わり、穏やかで優しい声色で紡がれたのは、恐らく私が探し求めていた人の名前。

あぁ嫌だ、忍び寄る不気味な何かがその正体を現そうとしている。


「ゴメンね、崚ちゃん。どうしても我慢できなくて、この人勝手に連れて来ちゃった。崚ちゃん、怒るかな」


もう一度ゴメンと呟いて、彼女は覗き込んでいたベッドから顔を上げる。

それから、眉間に眉を寄せた彩音ちゃんが、一歩引いて振り向いた。


「……ここにいるのが、あんたがずっと手紙でやり取りしてた人」


彩音ちゃんと重なって見えないでいた彼の姿が、そこに出来た空間から初めて見える。


「……っ」


装着された酸素マスクと痩せこけた腕に何本も繋がれた管が、一気に目に飛び込んでくる。


足が竦んだ。動けなかった。

あんなにも大切で、思い焦がれた人。そんな彼との初めての対面を、まさか、こんな場所で果たすことになるなんて思ってもみなかった。


「崚ちゃんはね、あんたのことが面倒になって手紙を出さないんじゃない。出せないんだよ」
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