晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
返す言葉を探しあぐねているうちに、リョータのお母さんがふわりと笑った。


「でもね、ある日を境に崚太は感情を取り戻したの」

「え……?」

「3年前の夏。かつてチームメイトだった同級生達の、最後の試合を観に行ってから」


3年前──私が中学3年生だった、夏。


「顧問だった先生から声が掛かって、陸上を失った傷が癒えないままに崚太は大会に足を運んだの」

「え……」

「行きたくないって言い続けてたあの子が大会から帰ってきたと思ったら、心底嬉しそうに教えてくれたわ。
すごく綺麗なフォームで走る子を見た、まるで風みたいだったって。その走る姿に、元気を貰ったんだって。……いつしかあの子の目には、光が戻ってた」

「……っ!」

「登坂さん──あなたが、真っ暗だったあの子の世界に再び色を与えてくれたのよ」


胸が、いっぱいになった。

一度引っ込んだ涙が、再び滝のように溢れてくる。

色んな事実を一気に知って、もう何の涙なのかわからない。
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