晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
私がシュンとしたのを見てか、リョータのお母さんが慌てた様子で視線を上げた。


「ごめんなさい、そんな顔させたかったわけじゃないのよ。気になるのは当然よね」

「いやっ……言いづらいことなら、大丈夫です……!」


そんな顔させたかったわけじゃないなんて、そんな台詞を言わせてどうする。

こっちが言うべきことだったのに、なんで言えないかな私。あまつさえ、気を遣わせるだなんて。


自己嫌悪に陥る私に、リョータのお母さんが小さく首を振る。


「私が、あなたに知っておいてほしいのよ。……あの子が、確かにここにいたことを」


ずぶり。また、足元が沈み込んだ。


「隣のグランドにあなたを見つけても、あの子はいつも通りだった。コンタクトを取る素振りも見せなかったし……病室から眺めるだけで、きっと十分だったんだと思う」

「じゃあ、どうして……」


聞くと、リョータのお母さんは長い睫毛を伏せて、何かを振り切るように頷いた。その姿は、ベッドの上で眠ったままのリョータとよく似ている。
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