晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
「……にね」


立ち聞きするつもりは毛頭ないけど、足が鉛みたいに重くて動かない。

結果として、彩音ちゃんの言葉が鮮明に聞こえる位置で立ち尽くしてしまった。


「崚ちゃんが眠ったままだと、彩の毎日、全然楽しくないよ」

「…………」

「一緒に見てたドラマも、もうすぐ終わっちゃうよ。犯人誰だろうって、崚ちゃんすっごく知りたがってたじゃん」

「…………」


か細い彩音ちゃんの問いかけに、彼は応えない。


「もう、寝顔見るの飽きちゃった。早く目ェ覚ましてよぉ……っ」


私に投げる鋭い声とは比べものにならないくらい、穏やかで、優しくて、澄んだ声で。

純粋に、彼女がリョータを想っていることが伝わってくるような、そんな声で。

打ち消した仮説を再浮上させるには、十分すぎるくらいだった。


その日は、リョータに顔を見せることなく家路についた。




インターハイ地方予選は隣県で行われる。学校にキャリーバッグを持って行って、学校が借りたバスを使ってそのまま宿泊施設へと向かうのだ。


「いよいよね」


教室の隅に置かせてもらったキャリーバッグを見て、真田が感慨深そうに言う。
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