晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
「来てもらっておいて申し訳ないんだけど、今日は引き取ってもらえないかしら」


形の綺麗な眉を寄せて、リョータのお母さんが絞り出したような声で言う。

何となくいつもと違う様子に、私はただ頷くことしか出来なかった。




とぼとぼとした足取りで病院を出る。駅へ向けて歩き出そうとした時、視界の端に見知った人の姿を捉えた。

彼も私の存在に気付いたようで、軽く手を挙げる。


「おう、もう帰るのか?」

「……うん。そっちは?」

「俺ももう帰るとこ。一緒に帰ろうぜ」


肩にスポーツタオルをかけた康介に言われ、顎を引く。

康介と家路を共にするのは本当に久しぶりだった。

真田同様、康介にもリョータのことは詳しく話していないけれど、私が病院から出てきたことに触れてこない辺り、康介は康介で何か察しているのかもしれない。


「あー、今日も疲れた。ただでさえハードなのに、これからテスト休みに突入したらもっと練習時間伸びるんだよなぁ。参るわ」

「練習って……あんた、今回のテストはいくつ追試あったの?」
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