プロポーズ(第4話)
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ある日の放課後。
あたしは屋上へ出てみた。
だれもいなかった。
フェンス越しに、野球の練習をしているグランドや、テニスの練習をしているテニスコートが見おろせた。その向こうには、あたしの住む街の家並みが続き、さらに向こうには小高い山が見えた。
空は、山の上側ではちょっとかすんでいるけど、真上には雲ひとつもない。青い空がとても透きとおっていて、めまいがしそうなほど高くて、なんだかちょっと切なかった。
ううん。ちょっとどころじゃないな。ずいぶん切なかった。
あーあ、カバサワもほんとバカサワだなぁ。こういうシチュエーションで口説いてくれたら、落ちたかもしれないのに。
「ふーん、そうか、今なら落ちるのか」
「んげっ?」
あたしは一メートル跳びあがって、二メートルうしろへさがった――ような気持だった。
「カバサワ、なんでここにいる?」
「いや、お前が屋上へ行くのを見たから、なんとなくついてきた。で、いいことを聞いたってわけ。今なら、お前、落ちるんだな」
「う……」
どうやら思ったことを口に出していたらしい。
カバサワがあたしの手をにぎって、歩きだそうとする。