ホテル王と偽りマリアージュ
私の予想通りの言葉で、お義母さんはケラケラと明るく笑い飛ばしてくれたけど、一哉の居場所は知らないと言った。
『私からも椿さんに連絡するよう伝えてみるわ』と言ってくれて、ホッとしながら電話を終えようとした私に、お義母さんが呼び掛けた。


『でも、夫婦喧嘩するほど仲がよくて、ホッとしたわ』

「え?」


ちょっと弾んだお義母さんの声に、携帯を持ち直しながら聞き返す。


『最初のうちは、私も主人も心配だったの。一哉は本当に椿さんを幸せにしてあげられるかしら、ってね』


その言葉に、もしや見抜かれてるんじゃ、と思った。
一瞬聞き返すのが遅れた私に構わず、お義母さんはなにか思い返すように続ける。


『見た目がああだし、元々物腰の柔らかい男だから、想像出来ないかもしれないけど……。恋愛となると冷酷なくらい淡白でね。正直なところ、今まで本気で好きになって付き合った人はいないんじゃないかって、私は読んでるのよ』

「そう、なんですか……」


驚くまでもなく、私自身最初から感じていたことだった。


想像出来なくなんかない。
柔らかい笑顔の裏でそういう冷酷さを持っている人だから、社長になる為だけに結婚を考えることが出来る。
あんな脅しをかけて、私に契約を突き付けた。


そんなことを思い出し、ぼんやりと相槌を打ったのがマズかったのか、お義母さんの声がちょっと慌てた。
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