ホテル王と偽りマリアージュ
思わず重い溜め息が漏れた、その時。


「っ……!」


携帯がいきなり着信音と同時に震え出し、ドッキンと心臓を跳ね上がらせながら、私は身体を強張らせた。
慌てて手に取り、そこに一哉の名前が表示されるのを見て、更にギクッと肩を震わせる。


まさかもうお義母さんから連絡がいったとか……!?
こんなに早く、と思うと、私の心は準備不足で緊張感が湧き上がる。
それでも大きく息を吸って意を決した後、電話に応答した。


ドキドキと速い鼓動を抑え、意識して声のトーンを低く保ちながら、『もしもし?』と探るように問い掛ける。
途端に。


『あ、椿さん?』

「へ?」


聞こえてきたのはあっけらかんとした明るい声。
即座に一哉ではないことはわかり、同時に私の胸に警戒心が広がった。


「要、さん……?」


なんで一哉の携帯から?と、どことなく嫌な予感がするのを感じながら、小声でそう訊ね掛ける。
耳元に、クスッと笑う声が聞こえた。


『声だけで俺ってわかってくれるんだ。嬉しいねえ』

「なんで一哉の携帯から? 一哉と一緒にいるんですか? だったら彼に代わってください」


からかい口調の軽い言葉は無視して畳み掛ける。
そんな私に、要さんが苦笑したのがわかった。
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