ホテル王と偽りマリアージュ
「随分だな。あー、このままじゃマズいかなって思ったから、取り返しがつかなくなる前に君に教えてあげようと思ったのに。親切心の出し損だった」

「な、なんですか」


要さんの言葉に、意地悪とは違う忠言のようなニュアンスを感じたから、私は怯みながら聞き返す。
ふうっと小さな息を吐くのが聞こえた後、『聞いてごらん』という言葉を最後に、私の耳に彼の周りの人たちの声や物音が届いた。


ガラスがぶつかる硬質な音。
女性たちの甲高い甘ったるい声。
楽しげな笑い声。
その後ろに小さく聞こえるどこかムーディーな音楽。


私の頭の中にぼんやり浮かぶのは、女性が同伴するそういうお店の空気。
想像が働くのとほぼ同時に、『一哉さん』と呼ぶ女性の声が耳に届いて、ドキッとした。
思わず『一哉!?』と呼び掛けてしまった時、クスクス笑う要さんの声が戻ってくる。


『ど~お? どこだかわかる? 椿さん』

「なっ……! ちょっと一哉に代わってください! なんでこんな」

『代わってあげたいのはやまやまなんだけど、ちょっとそういう状態じゃないんだよね』


小さな溜め息混じりの声にギクッとすると、携帯が再び要さんの周りの音を捉えた。
さっきより一哉に近寄ってるのか、彼の声が私の耳に届く。
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