ホテル王と偽りマリアージュ
途中の通りでタクシーを拾い、住所を告げてお店の前まで着けてもらった。
六本木のちょっと静かな路地にあるそのビルは、要さんの情報だと会員制の超高級クラブが何軒も入居しているらしい。
その中でも最上階までエレベーターで上がり、出迎えた黒服に要さんの名前を出して中に入れてもらった。
いわゆるバックヤード。
客を通す場所ではないんだろう。
きっとゴージャスなはずの空間を目にすることはなく、微かに聞こえる喧騒や人々のざわめきを耳にするだけ。
私は割と簡素なコンクリートの壁の廊下を突っ切り、奥まったドアの前で立ち止まった。
一度ゴクッと音を立てて唾をのみ、思い切って質素なドアをノックする。
『どーぞー』と軽い声が聞こえてきて、私は大きく息を吸ってからドアを開けた。
「失礼します」
言いながら室内に足を踏み出し、途端に身体が強張るのを感じて立ち竦んだ。
立派とは言えない黒いソファの上に、一哉が伸びるように横たわっている。
私の姿を見て、その反対側のソファに座っていた要さんがおもむろに立ち上がった。
「い、一哉っ!?」
焦りながら声を上げ、思わず一哉のかたわらに駆け寄った。
ペタンと床に膝をつき、ソファの上の一哉の顔を覗き込む。
彼は「ん」と短く唸っただけで、きつく目蓋を閉じたまま。
それ以上の反応はない。
六本木のちょっと静かな路地にあるそのビルは、要さんの情報だと会員制の超高級クラブが何軒も入居しているらしい。
その中でも最上階までエレベーターで上がり、出迎えた黒服に要さんの名前を出して中に入れてもらった。
いわゆるバックヤード。
客を通す場所ではないんだろう。
きっとゴージャスなはずの空間を目にすることはなく、微かに聞こえる喧騒や人々のざわめきを耳にするだけ。
私は割と簡素なコンクリートの壁の廊下を突っ切り、奥まったドアの前で立ち止まった。
一度ゴクッと音を立てて唾をのみ、思い切って質素なドアをノックする。
『どーぞー』と軽い声が聞こえてきて、私は大きく息を吸ってからドアを開けた。
「失礼します」
言いながら室内に足を踏み出し、途端に身体が強張るのを感じて立ち竦んだ。
立派とは言えない黒いソファの上に、一哉が伸びるように横たわっている。
私の姿を見て、その反対側のソファに座っていた要さんがおもむろに立ち上がった。
「い、一哉っ!?」
焦りながら声を上げ、思わず一哉のかたわらに駆け寄った。
ペタンと床に膝をつき、ソファの上の一哉の顔を覗き込む。
彼は「ん」と短く唸っただけで、きつく目蓋を閉じたまま。
それ以上の反応はない。