ホテル王と偽りマリアージュ
こうして家で生活するのが久しぶりだと感じさせないくらい、一哉はケロッと言い放つ。


実際のところ、何週間ぶりなんだ。
一哉がこの家でお風呂に入ってご飯を食べるのは。
いや、それ以上に、私だけがこんなにびっくりさせられて、彼が平然としてるのが納得いかない。
と言うよりむしろ腹立たしい。


「椿、ピザなにがいい?」


リビングに戻り掛けながら肩越しに振り返り、私にそんなことを訊ね掛けてくる一哉に。


「うわっ!?」


私はその背を追いながら、肩から掛けていたバッグを思いっ切り振り翳していた。
避けきれなかった一哉の右腕に、バシッと音を立ててぶつかる。


「つ、椿っ!!」

「なにがピザよ、なにが!!」

「え? 俺、好きだって言ったよね? 前に」

「そんなことどうでもいい! なんでそんな平然と帰ってこれるのよ!」


そう叫びながら、一哉の前に回り込む。
今度は両拳を彼の胸に打ち付けた。
うっと短く唸る声が頭上から聞こえる。
彼は私の勢いを吸収出来ずに、廊下の壁に背をついた。


「いってえ……。なんか俺、この間っから椿に殴られてばっかりだな~……」

「一哉が悪いんじゃない!」


呑気な苦笑に苛立ちながら、私はもう一度一哉の胸をドンと殴る。
その手を、一哉の手に掴んで止められた。


「痛いって。マジで」

「……」

「俺が悪いのは、ちゃんとわかってるから」
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