ホテル王と偽りマリアージュ
レストランではVIP用の個室だったから人目を気にすることもなかったけれど、開演時間前のオペラ劇場のロビーは、みんな負けず劣らず着飾った人たちでいっぱいだ。
そんな中、一際魅力的な彼に向けられる羨望の眼差しが、その後には私に落ちてくる。
その視線から感じる物は様々だけど、だいたいのところは想像出来る。


お務めとして、大半が親族の空間にいる時とは、ちょっと感覚が違う。
一哉の腕に手を掛けながら、ほんのちょっと身を縮めて視線から隠れるように彼に寄り添う。
気付いた一哉が「ん?」と私を見下ろし、サッと辺りに目を向けてから、口角に薄い笑みを浮かべた。


「なに小さくなってんの」

「だって、一哉に似合わないって思われてるの、わかりやす過ぎ……」

「俺が連れてるんだから、自信持って。それに俺、君の今日の服、一番好きだよ。清楚でシックで椿らしくて。よく似合ってる」


そんなことをサラッと耳元で囁いてくれるから、私の頬はポッと赤らみ、心はほんのり温かくなる。


「ありがとう」


胸を張って、笑顔を見せた。
一哉も微笑み返してくれる。


一哉のエスコートは、いつも私を心の底から安心させてくれる。
彼の腕に掴まっていれば、なにも心細くはない。
彼がそばにいてくれれば、私はいつも前を向ける。
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