ホテル王と偽りマリアージュ
「はいはい。そうだったな。でもお前もいい加減、次回辺りは彼氏と来いや」

「だから、一哉に……」

「いや、だから俺結婚してるしね」


兄妹の言い合いに、一哉がシレッと口を挟んで麻里香さんを止めた。


「俺がエスコートするのは、椿だけだから」


麻里香さんに向かって言ってるのに、一哉は横目で鋭く要さんを睨んでいる。
苦笑しながら肩を竦める要さんを見ながら、私は思わずジ~ンとしてしまった。


これだけ貶されてるのに、感動するポイントが間違ってる、とは思う。
まだ一哉が私に『恋』をしてくれてるわけじゃないのは百も承知だし、二人の前だから言ってるだけかもしれないのも、もちろんわかってる。
でも、『私だけ』って意味の言葉を人前で言ってくれる一哉に、ドキドキしてなにが悪い。


「……へえ」


一哉と私の様子になにか気付くところでもあったのか、要さんは一瞬訝しげな表情を浮かべてから、眉間に深い皺を刻んだ。
麻里香さんを見下ろし、「ほら」と彼女に車のキーらしき物を渡している。


「麻里香、お前は先に車に戻ってろ」

「なんでよ。私はもっと一哉と……」

「戻ってろって言ってるんだよ」


要さんの声のトーンが、聞いたことがないくらい低くなる。
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